ビュッデヒュッケ城ホーンテッドツアー
〜二階廊下階段〜

「まあまっすぐ言って行き先がばれてもまずいだろうな……」
 なにせ、部屋に居残っているのは、クリスのためなら感覚が三十倍くらい一気にとぎすまされるボルスだ。油断はできない。
 パーシヴァルは一旦一階に下りて外を回り、窓からクリスの部屋にお邪魔することにした。
 こつこつ、と一階から吹き抜けになっている玄関ホールへと向かう。すると、図書室から青い軍服の二人組がやってきた。ハルモニアの神官将ササライと、ディオスだ。
 彼らは図書館で何か作業をしていたらしい。おつきのディオスが、書類を大量に抱えていた。
(どこでも、書類仕事は一緒だな……)
 常に書類に埋もれかかっている騎士団長と軍師の姿を思い出して、パーシヴァルは小さく笑う。
 彼らの邪魔にならないように、とパーシヴァルが廊下をわきにどいたときだった。
「っと!」
 書類を持ちすぎたせいで、前が見えなかったらしい。ディオスがつまずいて転んだ。ばさばさと派手な音をたてて、廊下中に書類が広がる。
「ディオス、何やってんの?」
 自分では一枚も書類を持っていなかったササライがあきれ顔で振り向く。ディオスは慌てて書類をかき集め始めた。
「手伝いましょう」
 相手が男とはいえ、ここで見て見ぬふりをするのではゼクセン騎士団たる資格はない。パーシヴァルが書類集めを手伝おうとかがむと、ディオスが慌てて手を振った。
「あ、いえいえいえ、パーシヴァル殿、お気になさらず!」
「困ったときはお互い様です。この量、集めるの大変でしょう?」
「いえ!! 大丈夫ですから!!」
 ディオスはそう言い張るが、書類の量は半端ではなく、廊下の半分がそれで覆われている状態だ。ササライも億劫そうに手伝ってはいるが、すぐには集めきれないだろう。
 彼の言葉を制して、書類の何枚かを手に取ったパーシヴァルは、その内容が会計報告書であることに気がついて手をとめた。
 しかも、内容がおかしい。
 普通の会計報告書ならば一つであるはずの会計欄が、何故か三つもあった。そして、全て数字が違う。
 これはまさか。
(二重帳……)
 ぼっ。
 パーシヴァルの手の中で、書類が燃えた。
「っ!!」
 慌てて手を振って炎を払うとササライが冷ややかに見下ろしている。
「それ以上、そのできのいい頭を使わないほうがいいよ。二度と使えなくなるから」
「……っ、ササライ様?!」
 明確な殺意を感じて、パーシヴァルは後ずさった。彼は、本気だ。
「だから手伝うなって言ったのに。ディオス、他の書類は拾ったかい?」
「は、はい!」
 呆然とするパーシヴァルに、ササライはいっそ神々しいくらい美しく笑いかけた。
「今見たことは、忘れるといいよ。このくそ忙しいときにいちいち暗殺計画なんて練ってられないし」
「……何か、ありましたっけ?」
 そらっとぼけると、ササライは満足そうに笑った。
「物わかりのいい人は大好きだよ。うちのスパイもそれくらいだよかったんだけどね。じゃあおやすみ」
 にっこり。
 ついに笑顔を崩さないまま、ササライはディオスとともに去っていった。その後ろ姿から逃げるように階段へと向かったパーシヴァルは、心の中で絶叫する。
(そんなに危ない書類なら、わざわざ図書館で作業をするんじゃない!)
「いやあ自分の部屋で作業するのにあきちゃってさ」
 見透かすようなササライの捨てぜりふに、パーシヴァルは頭痛を覚えた。
 この慎重なんだかおおざっぱなんだかよくわからない神官将をどうにかしたら、ハルモニアという国は随分住みよくなるのではないだろうか……。他国ながら、パーシヴァルはそう思わずにいられないかった。
 まあいい。
 とにかく危機は去った。
 パーシヴァルは、ようやく一階に下りると、玄関ホールを見回した。
 玄関ホールから、城の裏手に出るルートはいくつもある。


>エレベーターを使って地下二階へ(裏口
>階段を使って地下二階へ(裏口)
>そのまま正面玄関から出る


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