ビュッデヒュッケ城ホーンテッドツアー
〜城の正面玄関〜

「ん?」
 玄関の大扉を押そうとしたパーシヴァルは、妙な手応えを感じて手を止めた。何かが扉の前にあるようだ。
 正面玄関に物を置くなど、非常識な人間もいるものだと思いつつも、反対側の扉を開けて外に出る。そして、扉の前に置かれていた邪魔なものを見たパーシヴァルは我が目を疑った。
「……?」
 そこに置いてあったのもは、いや、いたものは……犬、だった。
 城内のアイドルである風呂敷を背負った犬が五匹。何故か扉の前で仲良く並んで寝ている。
 しかも何故か腹を上にしてのびのびと。
 パーシヴァルは、呆然と立ちつくす。
 犬小屋の中ならまだしも、何故彼らはこんな玄関先でそんな無防備なことをしているのだろう?
 しかも全員そろって!!
(……こいつらに、生存本能はあるんだろか……)
 そうは思うが、答は当然、ない。
 とりあえず起こさないよう気をつけて、パーシヴァルはそっとわきを通り抜ける。
(なんとか起こさないで……)
「アオオオオオオオオオォォォォンン!!」
 通り過ぎたすぐ後ろで、突然闇を切り裂くような吠え声があがった。
「なっ!!」
 振り向くと、コロクが仰向けになったまま声をあげていた。驚いて呆然と見下ろしていると、今度はコサンジが、声の限りに雄叫びをあげる。
「……な、何ごとだ?!」
 五匹の様子をのぞき込んでみる。彼らはまだ目を閉じたままだった。そのまま、満足げにごろりと寝返りとうつ。
「……」
 まさかとは思うが。
 かなり非常識だとは思うが。
「今のは……寝言か?」
 人間同様、犬もまた寝言を言うことくらいは、知っている。だが、こんなに盛大な寝言など聞いたことがない。
「普段、寝言と同じくらい覇気があれば少しは役に立つんだが……」
 ずきずき痛むこめかみをもみほぐすと、パーシヴァルは石畳を降りた。
 やめよう、考えたくもない。
 畑のわきに出たところで、聞き慣れた声がパーシヴァルに向けられた。
「パーシヴァルじゃないか!」
「バーツ? どうしたんだ?!」
 見ると、農具小屋からバーツが顔を出している。
「お前、もう寝てる時間じゃないのか?」
 農夫の朝は早い。そして夜も早い。こんな時間帯に起きているのはかなり珍しいことだ。
「それがさあ、俺の畑を荒らすとんでもない奴がいるんだよ!」
「お前の畑を?」
「そうなんだよ〜〜。昨日は芋、おとといは麦がやられてさ! それで、今晩は寝ずの番をするつもりなんだ」
「大変だな……」
 パーシヴァルは、あごに手を当てると首をかしげた。
 青空男爵の領地を荒らす人間がいるということが、ちょっと想像つかなかったからだ。
 天才農夫、バーツが育てている野菜はどれもつやつやぴかぴかで絶品だ。畑になっているところを一つ失敬したくなる気持ちもわからなくはない。が、それと同時に、城の連中は、彼が一生懸命世話をしているところを見ている。
 彼の一生懸命な姿を見て、邪魔をするような者はいないはずだが。
(それに、どうせ放っておいてもレストランに行けば、一番おいしい状態で食べられるしなあ……)
「なあパーシヴァル、ちょっとの間でいいからさ、見張り番、つきあってくれよ」
「え? 俺?」
「お願い! だってさあ、泥棒は許せないけどやっぱ怖いし」
 ぱん、と手を合わせるとバーツはパーシヴァルを拝む。
「……」
 さてどうしよう?
 パーシヴァルはもう一度首をかしげた。


>手伝わない
>手伝う



>戻る