ビュッデヒュッケ城ホーンテッドツアー
〜畑〜

「しょうがないな……ただし、少しの間だけだぞ?」
「さっすがパーシヴァル! こっちこいよ。小屋から見張ったほうがいいだろ?」
 バーツは、パーシヴァルの手を引くと、小屋に入った。中には毛布と、何故か武器がいろいろ置いてある。
「バーツ、この武器は?」
 パーシヴァルはしゃがみ込むと、武器を手に取った。弓に短剣、槍、とおよそ農夫には似つかわしくないものばかりだ。
「ああそれ? やっぱり泥棒を捕まえるんなら、なにか武器がないと駄目かな、と思って用意したんだ」
 パーシヴァルは苦笑した。
「お前の腕なら、下手にへんなもの持つより、使い慣れた鍬を武器にしたほうがよっぽどいいと思うぞ」
「え? そうなの?」
「戦いっていうのは慣れの問題だ」
「……お前が言うと、実感ありすぎで嫌だな」
 パーシヴァルは笑った。当然のことだから。
 それを見て、バーツはため息をつく。床に座り込むと、ドアを少しあけて外を見張った。
「犯人の心当たりはついているのか?」
 パーシヴァルが小さく囁くと、バーツは視線はそのままに首を振った。
「城の連中……とは考えられないんだよなあ。野菜を粗末に扱う奴、いそうにないし」
「粗末?」
「ああ。盗むのもあ腹が立つんだけど、泥棒のやつ、盗んだ野菜を食い散らかしていくんだ!」
 バーツの説明を聞いて、パーシヴァルは首をかしげた。
 盗まれたらしい野菜は、麦と芋。その場でおいそれと食い荒らせる作物ではないのだが。
「おいバーツ、それって……」
「しっ、何かきた!」
 バーツに言われ、パーシヴァルは戸の外を見た。畑の近くの茂みがわずかに揺れていた。見ていると、茶色い何かが葉の間から覗いている。
「……?」
 がさ。
 がさがさ。
 葉を揺らし、月光の下に姿を現したものは……猪だった。
「い……いのしし……?」
 バーツが目を丸くする。その横で、パーシヴァルはやっぱりな、とため息をついた。芋やら麦やらを食い荒らすのは動物だけだ。
「とりあえず捕まえて……!」
「まあ待てよ。ここから出て行ったんじゃ間に合わないぞ」
「だったらどうするんだよ」
「こうするんだ」
 バーツが鍬を片手に出ようとしたのを止めて、パーシヴァルは弓を引き絞った。ひゅ、と小さく音を立てて、矢はまっすぐに猪に向かう。
 闇を切り裂いて飛んだ矢は、見事に猪の頭部に刺さった。断末魔の鳴き声をあげて、猪はその場に倒れる。
「よし!!」
「うっそお……」
 呆然と畑を見つめるバーツの横で、パーシヴァルは笑った。
「お前弓なんてできたのか? てっきり剣ばっかりやってるものかと」
 小屋の外に出て、猪を見る。猪は矢をうけて本当に死んでいた。
「俺が行ったのは単なる剣術道場じゃなくて、騎士団の士官学校だからな。剣以外にも他の武器が扱えないと単位がもらえないんだよ」
 騎士とは、戦闘のプロフェッショナル。大抵の武器は熟知していなければならない。
 まあ中には類い希なる剣技を武器に、他の単位を免除してもらった者も(ボルスとかボルスとかボルスとか)いたりするが。
「弓は、馬の上でうまく使えないから戦場で使ってないだけ。普通に的に当てるくらいならできるさ」
「……パーシヴァル」
「なんだ、バーツ」
「助けてもらってなんだけど、あんまり一人でなんでもできると腹たってくるぞ」
 言われてパーシヴァルは笑った。バーツはむくれながら、猪を引きずる。
「この猪は明日にでもメイミに料理してもらうよ」
「そうだな。楽しみにしてる」
 パーシヴァルは、弓を小屋に戻すと畑から離れた。
「あれ、パーシヴァルもう行くのか?」
「人を待たせているから。じゃあお休み」
「わかった。今日はありがとうな、パーシヴァル。クリスさんによろしくー」
「なんでそれをお前が知ってるんだ!」
 幼なじみの勘のよさに顔をしかめて、パーシヴァルはその場を後にした。坂を下りて、湖へと向かう。


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