パーシヴァルは、地下二階へ降り、廊下を歩いていた。
この奥にある、裏口から湖側へと出られるはずだ。
そして、ちょうど廊下の真ん中に来たところで。
ひゅっ!
鋭い風の音とともに、パーシヴァルの頬を、何かがかすめていった。
「何っ!!」
振り向くと、その『何か』は壁に深々と刺さっていた。
十字の形をした、特殊な刃物。十字手裏剣だ。
城内でこんなシロモノを使う人間といえば、数が限られてくる。カゲからの抜け忍、ワタリとアヤメだろう。
「ワタリ! アヤメ! どちらですか?! 私は命をねらわれる理由はないはずですが!」
護身用に携帯していたショートソードに手をかけながら、パーシヴァルは油断なく辺りをうかがう。確かに、姿は見えないが廊下には二人分の人間の気配があった。
「すまぬ」
いきなり耳元でワタリの声がした。
「……っ!」
ばっ、とそちらへ体をむけるが、もうそこには誰もいなかった。
「どこです!」
「すまぬ。下手に姿を現すと、俺の命が危ないんだ」
「どういうことですか?」
「今、我らは決闘をしているのよ」
今度は反対側でアヤメの声がする。そちらのほうも向いてみたが、当然アヤメはもういなかった。
「暗闇で閉ざされた廊下での決闘……そのほうが対決のしがいがあると申す輩がいるのでな」
「同意したのはそちらでしょう?」
ぎいんっ、とすぐ近くで刃物のぶつかる音がした。そして、また全然違う場所でつばぜり合いの音がする。
「ちょっとちょっと! 公共の場でそんな危ないことしないでくださいよ!!」
「大丈夫だ」
すぐ後ろで、ワタリの声。
パーシヴァルはもう、音を追うことを諦めた。
「我らは一般人に刃を当てるようなへまはしない」
「安心して通られよ」
「って……!」
パーシヴァルは怒鳴りつけたい衝動にかられた。
ということは何か?
手裏剣と忍者刀の飛び交う廊下を、そのまま通れと?
「今のところ、死人は出てない」
アヤメがとん、と背中を押した。
パーシヴァルは押された勢いに引きずられて走り出す。
とにかく出口を目指しながら、パーシヴァルは頭の片隅でちらりと考えた。
(死人は出てない……ってことは、けが人は結局出てるんじゃないのか?)
ばん、と裏口の戸を開けると、月光がパーシヴァルを迎えた。
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