Zukunft

 あたしはあんたじゃなくって、あの子の心配をしてるのよ!!

木箱の中を眺めながら、パーシヴァルはため息をついた。
「さて、どうしたものかな」
 お節介な来客二人のおかげでパーシヴァルはクリスのことを愛している、ということになってしまったらしい。
 いや、そのことについて否定するつもりはないが。
 だからといってこれから自分にどうしろというのだ。
 クリスマスにかこつけて告白してめでたしめでたし、なんてことにはいかないだろう。
「私は……」
 またため息一つ。
 ごろりと寝転がるとパーシヴァルは目を閉じた。
 他の女性の気持ちなら簡単にわかるけれど、彼女の心だけはわからない。
(これこそバーツの指摘したとおりだな……)
 くつくつ、と自嘲の笑みがもれた。
 そのときだ。
「パーシヴァル! まだ部屋にいるんじゃないでしょうね!!」
 どかん! とものすごい音がして部屋のドアが開いた。
 目を開けて起きあがろうとした瞬間、腹に何か重たいものをたたきつけられる。
「ぐはっ…………だ、誰……っ……」
 げほげほとむせかえり、体を起こすとそこには完璧にドレスアップしたリリィ=ペンドラゴンお嬢様が仁王立ちしていた。
「リリィ……殿?」
「そうよ! あんたやっぱり部屋にいたのね?!」
「やっぱりって……」
 ようやく体を起こしてみると、自分の腹の上には七面鳥(生)があった。
 たたきつけられたのはこれらしい。
「それにこの七面鳥は一体何なんですか?」
「クリスへのクリスマスプレゼントよ!」
「ではクリス様自身にお届けになったほうがよいのではないですか?」
「嫌よ。それじゃ意味ないもの。このプレゼントは、あんたが届けるの!」
「何故です?」
 言うと、フン、とリリィは鼻を鳴らした。
「何よ、あんたクリスを不幸にする気?」
「……話が、その、つながってないような気がするのですが」
「つながってるわよ。あんたは、この七面鳥を料理してクリスを誘いに行くの。あら、ちょうどワインも野菜もあるじゃない」
「それは別件でもらったものです」
「女じゃないでしょうね!!」
 ぎろ、と睨み付けられてパーシヴァルは七面鳥(生)を持ったまま後ろにさがった。
「バーツとナッシュ殿からいただいたものです」
「ならよかったわ。じゃ、早速料理しなさいよ」
「リリィ殿、それがわからないのです。何故私がクリス様を誘わないとクリス様が不幸になるのです?」
「馬っ鹿じゃない」
 語感たっぷりに言われて、パーシヴァルは女性相手とはいえさすがに顔が引きつるのを感じていた。
 彼女の突き抜けた独特の思考回路が理解できるのは、彼女のおつき二人と彼女に首ったけのハルモニアの神官将様くらいだろう。
「あんたがクリスを好きで、クリスがあんたを好きだからよ!」
「クリス様が、私を?!」
 聞き返すと、呆れた顔でリリィはパーシヴァルを見上げていた。
「何よ鈍いわねー、わかってなかったの?」
「わかりませんよ! ……って、ええ?」
 パーシヴァルが反駁するのを、リリィは聞いてない。
「人の恋路にはあんまりちょっかいはださないんだけどねー。あんたたち放っておいたら告白しないでずっとそのままでいそうなんだもん」
「そ、そうですか」
 さっきまで自覚を拒んでいた身としては反論できない。
「それはそれでいいのかもしれないけど、あの子にはライトフェロー家ってものがあるじゃない? 絶対家系をつぶすようなことはできないのよ」
「まあそれはそうですねえ」
「何年か後に、そろそろ身をかためなさいって言われて、誰か適当な人を押しつけられたら、あの子そのまま結婚とかしそうなんだもの!!」
 それは不幸って言うんじゃない?
 言われて、パーシヴァルはぎこちなく頷いた。
 大儀や家というものに弱い彼女だ。そんな事態はないわけでもない。
「で、あんたそうなったらあっさり諦めそうだし」
「……それはさすがにひどくありませんか?」
「じゃ、なんでクリスマスイブのこんな時間にここでのろのろしてたのよー」
「……それも微妙に論点が違うと思うのですが」
 しかし令嬢がそれを聞くわけもない。
「あんたが他の男よりいいとは、あたしは思ってないけど、クリスが好きな人なんだもの。クリスには好きな人と一緒になって欲しいの」
「そう、ですか」
「だから、ちゃんとクリスを誘うのよ! いいわね」
 いつものポーズでびしっ、と指を指されるとパーシヴァルに笑みがもれた。
「わかりました。この鳥は責任をもって調理して、クリス様と一緒にいただかせてもらいます」
「絶対よ!」
「ええ、約束します」
 微笑んでリリィの手の甲に軽く口接けると、ぴしゃりと叩かれた。
「そういうことはしない!」

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