Einst

 君に罪があるとしたら、君が君のことを見誤っているということだよ

 軽いノックの音で、パーシヴァルは体を起こした。同室のボルスはもう実家に帰ったはずだが。
 返事をすると、見慣れた幼なじみの顔が扉から入ってくる。
「ようパーシヴァル、元気か?」
「昨日も会っただろうが。見ての通り、元気だよ」
 同じ城で農園を構えているせいで、故郷にいるときより、この幼なじみと顔を合わせる回数は増えている。扉を大きく開いてやると、バーツは大きな木箱を抱えて入ってきた。
「バーツ、それは?」
「お前にクリスマスプレゼント! 冬野菜の詰め合わせだ」
「冬野菜?」
 バーツはどん、と木箱を床の上におろす。中をのぞき込むと、なるほどにんじんやじゃがいもなど冬野菜が満載されていた。
「俺の農園でとれたいいやつばっかりだからさ。おいしく料理してクリスさんと一緒にでも食べてよ」
「クリス様と?」
 何故そこでクリスが出てくるのか。
「あれ違った?」
「違う。全然違う。あの人は俺の上司であってそういう関係じゃないさ」
「イクセの村につれてきてたから、俺てっきりそうだと思ってたけど?」
「あれはあの人の休暇というか休息というか……あの人に必要だったからそうしただけの話だ」
「ほらやっぱり」
 バーツはしたり顔になる。
「何がやっぱりだ」
「やっぱりパーシヴァル、クリスさんのこと好きなんじゃん」
「騎士団長として尊敬はしているし、心配もしているがそんなことは……」
「あるって。パーシヴァル、昔と変わらないなあ」
 くすくすと笑うバーツに、パーシヴァルの顔はむっつりと不機嫌なものとなった。
「昔とこれと、どう関係があるんだ」
「本命にかぎって認めようとしないとこ」
「バーツ!」
 いつもなら相手を黙らせる台詞の一つや二つ、簡単に浮かぶものだが幼なじみでは分が悪い。
「花屋のラトナにしても、丸窓の家のレティにしても、いっつもそうだったじゃない。他の女の子の気をひくのはうまいのに、その人に限って何も言えなくて」
「バーツ、いい加減にしろ」
 これが事実でなければ殴り倒しているところである。いや、事実だから余計腹が立つのか。
「やだねー。俺の記憶の限りじゃ、自分の故郷なんて心の大事な部分を見せようとお前が思ったのはクリスさんだけじゃないかな」
「それがどうした。彼女を騎士団の団長としてそういう対象とは別に扱ってるということだって考えられるだろ」
「それこそ別格ってことじゃないか。今まで一番本気、ってことだろ?」
「おい……」
 バーツは笑うと立ち上がった。箱を置いて部屋から出て行く。
「その野菜、クリスさんにごちそうするかどうかは置いといてさ、ちゃんと食べてよ」
「こらバーツ、言い逃げか?」
 彼はそのつもりらしい。
「で、来年あたりクリスさんと一緒にイクセに遊びに来てくれたら、おじさんたち喜ぶと思……」
「それはない!」
 ばん、と戸を閉じるとパーシヴァルは不機嫌にベッドに腰掛けた。

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