ビュッデヒュッケ城ホーンテッドツアー
〜湖のほとり〜

 まあ念には念をいれたほうがいいだろう。
 パーシヴァルはそっと彼らの背後へと移動した。彼らの視線は、何故か湖面に集中している。後ろに立つのは簡単だった。
「早く来ないかなあ……」
 アーサーがつぶやく。その首筋を、
 トン!
 とパーシヴァルは叩いた。
 急所を一撃されて、アーサーが前のめりに倒れる。
「ん?」
 異常を感じてギョームが振り向くよりも先に、パーシヴァルは今度は剣を使って思い切り首筋を叩く。肉の分厚さが不安だったが、ギョームはぐったりとその場に倒れた。
「ふう……これで、よしと」
 パーシヴァルは彼らを見下ろした。恐らく、朝まで目がさめないだろう。人に発見されないように、茂みの中へと移動させる。一応アーサーを、ぬくそうな(というか暑苦しそう)ギョームの側に寄せておく。そんなに寒い季節でもないし、夜外に置いておいたくらいでは風邪をひかないだろう。
 彼らの始末をつけて、クリスの部屋を訪れようとしたパーシヴァルは、また人の気配を感じて、その場にしゃがみ込んだ。
 来客の多い湖である。
 草の間から伺っていると、少女が一人、城のほうからやってきた。
(誰だ……? あの少女は)
 人形のような少女だった。月光を映す真っ白な肌に、色素のかけらもない銀の髪。鮮やかな血の色の瞳が印象的だ。
 パーシヴァルは首をかしげた。様々な人間が出入りするビュッデヒュッケ城だが、彼女の姿は見たことがなかった。自慢ではないが、女性の顔を覚えるのはかなり得意なほうだったのだが。
 少女は楽しげに微笑んでいた。なにか、悪戯を思いついた子供のように。
 そのわけは、すぐわかった。
「シエラ!」
 湖に響く声。この声には聞き覚えがあった。少しトーンが高めのよく通る声、ナッシュだ。
 少女はそれを聞くととても嬉しそうな顔になった。これを待っていたのだ、きっと。
 そして、ふりむく直前に思い切り不機嫌な表情をつくる。
「何のようじゃ」
 かけられた声のほうを向いた、彼女はおもいきり不機嫌になっていた。
「何って……急にいなくなったら驚くだろうが」
 少女に駆け寄ったナッシュは、彼女の肩に手を置いてため息をついた。その様子を見て、パーシヴァルは驚く。彼の姿が、いつもと全然違ったから。
 なにせ、いつもきっちりまとめている髪はぐしゃぐしゃ。装備品満載のジャケットはどこかにおいてきたのか上はシャツ一枚。しかも足は裸足である。
 にやけ男も、これだけあせることがあるのだとパーシヴァルは信じられない思いで二人を見た。
「少々のことで騒ぐでない。子供かおんしは」
「十五年前、おもいっきり人にトラウマうえつけておいて言う台詞じゃないぞ」
「小さなことをいつまでも……」
「小さくないって、それ」
 ナッシュは、肩を落とした。それから少女を見つめる。
「で……? なんで出て行こうとしたんだ、シエラ女王様?」
「飽きたからじゃ」
「飽きたぁ?」
 うむ、と少女は大仰に頷いた。
「全く……やれ外には出るな、ハルモニアの連中には関わるなと……わらわはおんしの部屋の天井ばかり見ておるのは飽きたのじゃ!」
 パーシヴァルは、それを聞いて、思わず脱力しそうになった。
 狭い城内といっても、デリケートな情報を扱う人間は、優先的に部屋を与えられている。スパイであるナッシュもその一人だ。
 それをいいことに何をやってるんだあの馬鹿は!
 女を囲って住まわせているなど、言語同断である。
 ナッシュは、少女の言い分を聞くと、思い切りため息をついた。
「無茶言うなよ! あんたわかってんのか? 真の紋章を持ってるっていうのは……」
「つまらぬものはつまらぬのじゃ!」
「しかし……」
「じゃから、出て行くと言っておるのじゃ」
 ひらりと身を翻そうとした少女を、ナッシュは捕まえた。
「おい待てよ!」
「何の用じゃ」
 ぎろりと睨み付けられて、ナッシュは眉を下げた。彼女にはどうにも強く出られないらしい。
「……部屋に閉じこもっているのが退屈なだけなんだな?」
「うむ」
「だったら気分転換の方法を考えておくさ。それじゃ駄目か?」
「して、どのような?」
 ナッシュは少女を引き寄せると木陰に入る。
「どこかにデートスポットを見つけておくとか」
「ふむ……?」
 少女は、その提案に心を引かれたようだ。思案顔になる。
「ここも一応デートスポットだけどな」
 くす、と笑うとナッシュは少女を抱きしめた。そして強引に口づける。
「んっ……」
 少女は、抵抗らしい抵抗をせずに、ナッシュの唇を受け入れた。
 深くなるキスに、段々と少女の頬が紅潮してゆく。手はいつのまにかナッシュの首に回されていた。
(……ちょっと……これはまずいか?)
 パーシヴァルは目のやり場に困って視線をそらせた。
 しかし、唇の触れあう音と、衣擦れの音からは逃れられない。
 ちら、と一瞬視線を戻すと、ナッシュの手は何故か少女のスカートの中に侵入していた。
 まずい。
 パーシヴァルは眉間に皺をよせた。
 痴話げんか程度ならともかく、さすがに濡れ場まで勘弁してほしい。だが、逃げようとすれば音が出る。勘のいいナッシュのことだ、気がつくに違いない。
 どうしようかと真剣に悩んでいると、少女が小さく声を出した。キスのせいで脱力した体を、ナッシュが支える。
「もう立ってられない……かな?」
 ナッシュは楽しげに少女を抱き上げた。少女は潤んだ瞳でナッシュを睨んでいる。
「今日はこれくらいで我慢してくれよ。明日は何かおもしろいところを見つけておくからさ」
「逃げられぬようにしておいてよく言う……」
「ずるいのはお互い様だろ」
 ナッシュは苦笑すると少女を抱いたまま、城のほうへと移動を始めた。パーシヴァルはやっと息をつく。
 よかった、と思って顔をあげると、去り際にナッシュがこちらに視線を向けた。そして、少女に見えないように小さく唇を動かす。
『他言無用』
「あ、あのオヤジは……」
 パーシヴァルはその場に座り込んだ。
 どうやら気づいていて、あそこでやめてくれたらしい。感謝すべきなのか、怒るべきなのか。
(いや怒るべきか)
 全くはた迷惑なカップルにあてられて、死ぬほど疲れさせられてしまった。
 パーシヴァルは首を振ると城壁に向かった。このすぐ上に、クリスがいる。オヤジのことは忘れて恋人と会うのが得策だ。
「パーシヴァル、遅かったな!」
 窓を叩くと、クリスは嬉しそうに窓を開けた。辺りにもう一度気を遣ってからパーシヴァルは中に入る。クリスは笑ってパーシヴァルの手をとった。
「どうしたんだ? こんなに遅くなるなんて」
「途中でいろいろとありましてね」
 クリスを抱き寄せて、パーシヴァルは手をとめた。見上げてくるクリスの珊瑚色の唇。同時に、先ほど見た少女とナッシュのキスシーンがフラッシュバックする。
「パーシヴァル?」
「……」
 囁く、その唇。
 パーシヴァルは無言でクリスにキスした。
「んっ……」
 驚いたクリスは、軽く抵抗しようとして、やめた。パーシヴァルはその体をきつく抱きしめる。
 徐々に力の抜けていくクリスの体を支えながら、パーシヴァルは開いた手でクリスの部屋着のボタンを外し始める。
 キスの合間に、クリスが抗議した。
「こらパーシヴァル……っ! 明日は朝練があるから……それは」
「文句ならナッシュ殿に言ってください」
「なんでナッシュ……んんっ!」
 翌日、クリスの大寝坊にルイスが首をかしげたとかかしげなかったとか。




HAPPY ENDING


40001ヒット記念、安原あすみ様のリクエストで
「ベッド一つの謎」
ビュッデヒュッケ城で一つの部屋におしこまれた
ボルスとパーシヴァルがどうやって寝ているのか?
……って、クリス様のところでパーシヴァルが寝てるに決まってるじゃない
というのがもとねたです。

裏部屋ねたか、お邪魔虫満載とするかどちらか選択だったのですが
お邪魔虫満載バージョンに。
書き上げるのが遅くなったのでおわびに構成を凝って……みたらすごいことに
……駄目かなあ……

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