ビュッデヒュッケ城ホーンテッドツアー
〜二階廊下つきあたり〜

 パーシヴァルは廊下の奥へ向かった。
 このまままっすぐ行くとクリスの部屋がある。すぐ突き当たりだ。
(さてと、部屋に……)
「パーシヴァル殿、どうしました?」
 ドアに向かおうとした瞬間、声がかかった。
「おや、サロメ殿」
 振り返ると、そこには今仕事終えたらしい、まだ騎士服を着たサロメが立っていた。そしてレオも。
「もう今日は仕事は終わりでしょう? クリス様もそろそろお休みですよ?」
「あ、いえ……」
 パーシヴァルは言いよどんだ。
 まずい。
 この先にはクリスの部屋しかないのだ。
 深夜に、クリスの部屋へ行く様子など不審者以外何者でもない。
「パーシヴァル? 何やってんだ」
 言い訳を考える間もなく、自室からボルスが出てきた。そして不機嫌にパーシヴァルを見る。
「女のところに行くんじゃなかったのか? 手の早いお前の割に珍しいな」
 天を仰ぎたくなる気分というのは、きっとこんな時のことを言うのだろう。パーシヴァルは額に手をあてた。
 鈍感なボルスでもないかぎり、この状況が理解できないわけがない。案の定、サロメとレオの表情は、呆れと怒りの入り交じった複雑なものになる。
「成る程、女性のところへ行くところでしたか」
「それでクリス様の部屋の方へうっかり行くようでは、パーシヴァル、珍しく疲れて射るんじゃないのか?」
 そう言う、サロメとレオの目は笑っていない。どころか冷たい炎が宿っている。
「え、ええ……そうかもしれませんね」
 二人に歩み寄ると、がし、と肩をレオに掴まれた。それも渾身の力で。
 そしてボルスには聞こえない程度の声で、サロメが囁く。
「貴方がクリス様とつきあっているのは別にいいのですが、騎士団内に広まるのだけは避けてください。士気下がる」
「士気の問題ですか」
「七割方。大体、貴方が他の連中に暗殺されるのも戦力としては痛い」
 それが三割ですか。
 まあ、それ以上の怒りもあるのかもしれないが。
自己管理には気をつけろよ」
 最後に、更に思い切り肩を握りしめたあと、レオがパーシヴァルの肩から手を離した。
 恐らく明日には綺麗な痣が浮き上がっていることだろう。
「お、パーシヴァル、どうした?」
 いきなり部屋に戻ってきたパーシヴァルに、ボルスが目を丸くした。
「いや、ちょっとね……」
 パーシヴァルは、心底疲れ果てた声を出して、床に寝転がった。
「おい?」
「今日はもーいい……床で寝る……」
 ため息ひとつつくと、パーシヴァルは部屋の隅で朝まで転がっていた。



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