Birthday? Birthday!

 

「なあシエラ、あんたの誕生日を教えてくれよ」

 ある日ふと、ナッシュはそれをきいてきた。
 ナッシュがシエラを見つけ出し、どうにか口説き落として再び同行者のポジションについてから一月。『花が見たい』と言い出したシエラの要望に従い、大陸を南下していたときだった。
 がらがらがしゃーん! という雷の音が街道に響く。
「な、な、いきなりなにするんだよ! あんたは!」
 とっさに飛びのいたナッシュは抗議の声をあげる。今まで立っていた場所は、真っ黒焦げに焦げていた。
「別に。少々気に障っただけじゃ」
「少々、で俺を殺しかけるな!」
「ふん。この程度では死なぬくせに」
 つん、とそっぽを向いてシエラは先へ行く。ナッシュはそれを慌てて追いかけた。
「何がそんなに気に障ったんだよ! ただ誕生日をきいただけじゃないか」
「知ってどうする」
 じろり、とシエラに睨まれて、ナッシュはきょとんとした顔になる。
「知ってって……単なる興味と、あとは誕生日がきたらお祝いをするくらいかな?」
 恋する乙女ならば恋占いなどに利用するのだろうが、あいにくナッシュは恋はともかく乙女ではない。
 動機を聞いて、シエラはますます不機嫌になった。
「言っておくが、わらわはそれを教えぬぞ」
「なんで? 祝い事だろ。いいじゃないか」
 生来のイベント好き、ナッシュは食い下がる。シエラはうるさそうに手をはらった。
「祝うようなことではない」
「どこが」
 ぴしゃん! とまた雷が走った。ひょわ、というよくわからない奇声(悲鳴)をあげたナッシュは紙一重でそれをよける。
「で? おんしは八百本以上の蝋燭をたてたハリネズミのようなケーキを食し、わらわが千年近く生きておることを賛美したいと、そういうわけじゃな」
「誰もそんなことは言ってないだろう!」
「同じじゃ! 乙女に歳の話をするでない!」
 怒鳴りつけられて、ナッシュはため息をついた。
 ここまで言われて、永遠の少女であるシエラが、何故誕生日を嫌うかということくらい、ナッシュに推測できないわけはない。しかし。
「……誕生日祝いって、別に歳を数えるためだけにあるものじゃないだろう」
「どこがじゃ。人が成長したことを指折り数えて祝う。そいう行事じゃ、あれは」
「違うって」
「では何じゃ」
「誕生日はその人が生まれたことを祝う日だろう?」
「……は」
 やっと自分の方を見たシエラに、ナッシュはにっこりと微笑んだ。
「あんたが生まれて、ここまで生きてきて、俺の隣にいる。それが嬉しいから。あんたがいることが嬉しくて、あんたが生まれた日をお祝いしたい。それじゃだめか?」
「わらわが、生まれてきたことを?」
 そう、とナッシュはうなずく。
 シエラは、どこまでもお人よしなこの荷物もちの瞳を覗き込んだ。月の紋章を宿し、呪いをうけてから今まで、紋章の能力ぬきに、ただ自分が存在することを嬉しいと言われたのは初めてだった。
「そういう意味では俺的には月の紋章にも感謝、かな? あんたが普通の女だったら、俺はどう逆立ちしてもあんたに会えてないから」
「おんしという者は……」
 ナッシュの手が、シエラの髪に触れる。
「ってわけで、シエラの誕生日を教えてくれないか?」
 笑いかけた男に、シエラも笑いをもらした。
「そうじゃな。そういうことなら祝われてやらんこともない。……しかし」
「しかし?」
「ちょうど明後日なのじゃが、祝いの準備は間に合うのかのう?」
「……! そういうことは早く言ってくれ!」
 ナッシュは背負っていたトランクにシエラを乗っけると、大急ぎで街道を走っていった。その背中で、シエラは笑う。  




1000ヒット記念SSてかすっげー、短い……
ぴちねこ様のリクエストでお題は
「ナッシエSS いちゃいちゃあまあまで」
あまあまですが、いちゃいちゃしてるかどうかは疑問……
まあこのあといちゃいちゃしてたってことで
イラストの料理の制作者はもちろんナッシュ
下僕のあまりのうかれっぷりに女王様ちょっと引きぎみです
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>かえりま〜〜す