任務の合間にたまたま立ち寄った村。
程好く賑わう街の中央広場は飾り付けをする者、テントを張る者などが屯して。
「…祭かな?」
横目に通り過ぎるナッシュが口にすれば。
「豊穣祭というところかのう。夜には振舞い酒でも出そうじゃな」
山と詰まれた酒樽に視線を送りシエラが答えた。
祭ともなれば近隣からの訪問も多く、案の定幾つかの宿は満杯で。
それでも、上等と言える宿に部屋を確保できたのは幸運なこと。
遅い昼食を取ると、二人は祭の下見に出かけた。
飾り付けや露店の準備などで忙しい広場の中を二人連れ立って歩く。
時折はしゃぐ子供の声や陽気な娘達の笑い声が通りを横切る。
それがあっさりよい部屋を取れ、二人、心から安堵する。
酒場を兼ねる一階の食堂に降り立てば、祭の前夜ということで、皆一様に顔が綻んでいる。
豊穣祭。
今年は特に実りが多かった為、いつもよりも盛大に行われるという。
振舞われる酒も上々の仕上がりとのこと。
イケる口の二人は早々に祭の場へと足を進めた。
宿の主人がいったとおり、振舞い酒は口当たりも良く、香りも芳醇でシエラの好みに合った。
隣で同じように酒を口にしたナッシュの顔も綻んでいる。
人込みをあまり好まないシエラがすぐに街を出ると言わなかったこともあったのだろうが。
本当のところは、ナッシュはまだ任務の途中で。
シエラもそれと知って未だ行動を共にしている。
毎日のように届く指令と、それに合わせてグラスランド・ゼクセンの間を行き来する。
普通なら途中でシエラがどこかに消えても可笑しくはなかった。
が、思惑がどうであれ、ナッシュは共にいられる時間を大事にしたいと思っている。
任務が過酷であるにしろないにしろ。
命の保障はない。
簡単に命を落とすようなヘマをするつもりは無かったが、不可抗力は否めない。
そして、シエラが口にしない理由で共にいることを知っていて。
ほろ酔い加減になった頃、夜の帳が下りて。
村は一層賑やかになる。
露店商たちが声をあげ、それに微笑みからかいながら買い物する者たち。
それに混ざって、ふたりはひやかしながら村を廻る。
さして大きくは無い村。
二人は風車のある小高い丘での待ち合わせをすると各々露店を廻ることにした。
満天の星の下。
風が回す風車の音が聞こえる。
祭会場の村の中心は賑やかなものの、丘の上はひっそりとして。
風が銀の髪を靡かせる、その心地良さをシエラは目を閉じたまま感じていた。
「待たせたか?」
ふわりと小柄な身体を包み込む暖かな腕。
「いいや…ここは風が心地良い」
目は閉じたまま、その温もりを肌で感じる。
「そのまま、目は閉じててくれよ」
ナッシュはそう言うと、そっと小さな手に箱のようなものを載せた。
そして、シエラの手を自分の手で包み、シエラの目の高さまで上げる。
「…もういいぜ」
ゆっくりと目を開くと。
シエラの手ごと、ナッシュは手を開き。
現れたのは小さな小箱。
その中に可愛らしいピアスが収まっていた。
「安物だけど、あんたに似合いそうだったから…」
後ろにいるのだから、見えるはずの無いナッシュの顔が赤くなっているように感じたのは間違い
ではないだろう。
軽く口元を上げると、ナッシュの腕の中で起用に方向を変える。
「つけてはくれんのかえ?」
にこりと微笑む。
やはり、心なしか頬は赤い。
無言のままナッシュはシエラの耳にそれを飾りつける。
「…よく似合う…」
ナッシュもまた微笑み返す。
「わらわからも贈り物があるのじゃが…」
「喜んでお受けしますが」
細い腰を抱き寄せるナッシュの首に腕を回し。
「…この身体はわらわのものじゃ。この髪もこの瞳も、身体についた傷ひとつさえ、わらわだけの
ものじゃ…それを忘れてはならぬ…」
「月に誓って」
いつも、ナッシュが送るのは形あるもので。
いつも、シエラが送るのは、形のないもので。
「…明日からまた、任務なのであろう?それが一段落ついたなら形あるものをおんしに贈ろう」
「………プロポーズみたいに聞こえるんですが。始祖さま」
「だったらどうする?」
「終わったらすぐ連絡します」
月明かりにふたつの影が重なった。
湖上に隣接する古びた城の林の片隅。
月夜の晩に、ナッシュはその贈り物を受け取った。
それは愛する人を象った銀と紅のペンダントとひとつの約束。
ぴちねこさんのサイト、glassforestで
1000ヒット記念企画としてフリーで配布されていたのを強奪して参りました。
アンケートをとった結果いちゃいちゃあまあまとなったそうで。
もう、そのお題の通りあまあまです。
ナッシュが幸せそうで、かわいい……
>戻ります