それは、俺の

 それらは全て俺のものだった。
 つい最近まで

「ふふ」
 クリスの嬉しそうに笑う声が耳に届いた。俺は、それを聞いて軽く眉だけあげた。
 それが、自分に向けられた声ではないとわかっていたから。
 ソファに寝転がる俺の背後で展開されるくすぐったいやりとりが、俺の神経をちくちくと刺激する。
「ん? なんだ、内緒話か?」
 くすくす。笑う声がひそめられる。
 おそらく、「奴」が耳元に口を寄せるのを待っているのだろう。
 ほんの少しだけの沈黙。それからまた笑い声。
「奴」は彼女の綺麗な耳に囁きかけ、彼女を楽しませることに成功したらしい。
 笑い声は続いている。
 彼女の白い腕。
 珊瑚色の唇。
 紫水晶の瞳。
 それらはすべて、俺のものだった。
「奴」が来るまでは。
 それからいろいろなものがいっぺんに変わった。
 今では彼女の傾ける愛情の大半は「奴」のものであり、瞳を向けられるのもいつも「奴」だ。
 腕を広げ、彼女が迎え入るのも、抱きしめられるのも、キスをうけるのも
 全て、「奴」
「あ、こら! そんな風に胸をさわっちゃだめじゃないか! くすぐったいって」
 とがめるような声。けれど、それは決して嫌そうではない。
 だから、それは俺のなんだってば。
 のっそりと体を起こすと、俺は彼らのほうを振り向いた。
「パーシヴァル、起きたのか」
 俺の不機嫌など全く気づいてない女神はいつも通り美しく微笑む。
 そして、彼女の腕(ついでに胸)で戯れていた「奴」も俺を見る。
「まあね。何を話していたんだ?」
「パーシヴァルには内緒の話だ。な?」
 クリスに話をふられて、「奴」は、俺の息子は、にやり、と笑った。
 勝ち誇った表情で。
 育児書に書いてあったが、人は幼児のころにも一度思春期をむかえるのだそうだ。息子なら母親に、娘なら父親に。
 身近な肉親に対して、愛情をどうしたら得られるのかということを学ぶらしい。
 母親に愛情を求める息子、それは当たり前の光景だけれど、こんなふうににやりと笑われた日には、息子といえど少々腹がたつ。
「クリス、今日の夕食は何にしようか?」
 俺は立ち上がると、彼らに近寄った。そして、クリスの額に軽くキスする。
「こら、子供の前でするんじゃない。そうだな……ハンバーグなんてどうだ?」
「了解」
 笑いかけると、息子はむっとして俺を見上げた。
 育児書にはこうも書いてあった。
 母親に愛されたいと思った息子は、彼女の伴侶である父親をみて、それをまねるようになるのだそうだ。
 ならば。
 この勝負、絶対負けてやらん。
 男二人の間で、火花が散ったことを、女神は知らない。

「狂ったように、息子に嫉妬するパーシヴァル」
シャラ様からリクエストをうけ、
ナッシュやボルスじゃありきたりでつまんないなあ、
と思った瞬間できました。
パーシヴァル、全然大人げないです。
子育てしたことのない私が書いてあるので、
育児書云々にかんしては本とかの知識です。
つっこみどころがあるのはご容赦を。

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