ザジ&ナッシュ 仁義なき戦い
その6 〜最終話〜

 かつかつかつ、という硬い床を踏む足音を、私は聞いていた。
 その音はこちらへとまっすぐ近づいてくる。
 訓練のせいで少しおとし気味の足音。ナッシュだ。
 ナッシュがラトキエの家を出てから二週間がたっていた。三日後は、ユーリと私の結婚式。
 普段は間抜けなくせに、ことこういった荒事に関しては人並み以上に長けているナッシュは、 私たち組合の尾行をあっさりまいて姿をくらましていた。居場所がわかったのはつい昨日。クリスタルバレーに戻ってきたところでやっと見つけたのだ。
 どこに行ってきたかはわからない。
 しかし、彼の目的はわかる。
 ほかのガンナーの報告によると、彼は父親の墓を掘り返していたらしい。
 ナッシュは、父親の死に疑問をもったのだ。この旅はそれを証明するための証拠固め。
 彼は、証拠を手に入れただろうか?
 答えは否と言いたい。
 毒を盛ったマデリーンも、使った毒薬も処分済み。毒薬は役人の調査くらいでは発見できない特殊なものだ。まず、出てはこない。
 だから大丈夫と思いたいが、相手はあのナッシュだ。
 どんなことをやるかが予想がつかなくて困る。
「さて……どうするかな」
 つぶやくと同時に、足音が止まった。ちょうど、私のいる部屋の前で。
「ザジ……いるか」
 軽いノックの音と、問いかけの言葉。私は袖の中に仕込んだ小銃を確かめると立ち上がった。
「いますよ。どうぞ入ってください」
「ああ」
 ナッシュは部屋に入ると、静かに私を見据えた。
 ああ……証拠を見つけたな。
 怒りに燃える緑の瞳からは、疲れはあっても焦燥感や絶望感はない。何かを手にしたからこその目だ。
 しかし、ごまかせるものなら、できるだけとぼけたほうがいいだろう。わら氏はいつもの笑顔を貼り付けて応対した。
「どこに行ってらっしゃったのです? 妹の結婚式に出ない気かって、ユーリさま、怒ってましたよ」
「ザジ」
「ヴァージンロードを手を引いて歩いてくれる人がいなくなるって……」
「ザジ、演技はいいかげんやめろ」
 ナッシュは、押し殺した声で私を制した。しかし、私はきょとんとした顔をした。
「演技って? 何のことです?」
「親父を殺したのは、ザジ、お前だろう」
「私が? なぜ?」
「月並みだが、家と財産……そんなところだろう? 組合の一派が、ハルモニアで実権を握ろうとしていることは、前からうわさには聞いてたからな」
「組合ってそんな……」
「ザジ!」
 ナッシュが叫んだ。
「もう調べはあがってるんだ。親父を殺した毒……普通では検出できない毒だったが、わが師サウロ老に検査を頼んだら出てきたよ。『土小人の吐息』? だっけ、あの毒は」
 私は息をつくと顔をあげた。
「どうやら、本当にごまかしはきかないらしい……」
 素の自分の顔を覗かせると、ナッシュは殺意すら帯びた顔で私を睨んだ。
「これでも結構がんばって隠していたのですけどね?」
「だろうな。俺だって信じたくなかったさ」
「ナッシュ様、いつから私を疑っていたのです?」
 ふと疑問に思って聞いてみた。ナッシュつまらなそうに答える。
「最初からさ」
「最初から?」
 私は驚いて聞き返した。初対面でばれるとは、さすがに思っていなかったから。
「あんたが、俺を最初に見つけたとき、確かに行き倒れてはいたけど、周りを観察するだけの余裕くらいはあったんだよ。俺の姿は言っちゃあなんだが、死体同然だ。しかしあんたはえらく冷静に俺を観察してた。……死体なんか見慣れてる連中の態度だよ、あれは。それがひとつ」
「ひとつ? まだあるんですか?」
 ナッシュはうなずいた。
「その時点じゃ、ただの胡散臭い奴だからな。組合の連中だと疑い出したのは、あんたの本を親父の攻撃のたてに使ったときだ。あの本からは、発火紙特有の火薬のにおいがしていた。図書館の本みたいだったから、あとでそっちに探りも入れてみたんだ」
「成る程、図書館でのアルバイトは、そういう意図があったのですね」
 ナッシュは苦笑する。
「素寒貧だったのも本当だけどな。で……ザジ、正体が割れた今、お前はどうする?」
 ナッシュは、ゆっくりと、手を自分の背中に回した。私も、袖に仕込んだホルダーに触れる。
「俺としちゃあ、このまま消えてくれると助かるんだが」
「組合の人間がそれをするとでも?」
 ナッシュを殺して強引にでも結婚式をあげる。組合の人間なら普通こちらを選ぶ。私も含めて。
「ザジ……残念だよ。食べ物くれたり、お金かしてくれたり、結構いい奴だと思っていたのに」
「私はあなたのそういうところが嫌いなのですよ!!」



ナッシュ、今日の戦利品…………特になし


外伝のあのシリアスシーンが一気にギャグに!!
二時間ドラマの解決シーンを書いてる気分。
ちゃんと一話から伏線はってたんですよ、一応


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