かわいい悪戯 お題:悪戯

 くすくすと笑う、恋人の声にパーシヴァルは顔をあげた。
 柔らかな体温を感じるほどの距離にいるせいか、その先にはぶつかるほどの近さに彼女のアメジストの瞳があった。
「クリス様?」
 パーシヴァルが訊ねるが、クリスは笑ったままだ。
 激務を抱えるゼクセン騎士団のたまの休み。パーシヴァルとクリスは、クリスの私室にてのんびりとした時間をすごしていた。
 パーシヴァルお手製の焼き菓子をアッサムティーで味わって、クリスの広いベッドでのんびりごろごろ。自堕落な時間の過ごし方ではあるが、もともと普段が急がしすぎるのだから、たまにはこういうのもありだろう。
 睦み合うでもなく、ただお互いに体温を感じながら緩やかな時を過ごす。
 その居心地のよさに、パーシヴァルが軽くあくびをした時だった。
 するり、とクリスの腕がパーシヴァルに回された。
「どうされました?」
 クリスは微笑んだまま答えない。寝転がったまま体をずらすと、そのままパーシヴァルの頭を抱えるようにして抱きしめる。
「ちょっと……クリス、様?」
 頭を抱きかかえられ、クリスの胸の谷間に顔をつっこむ形となったパーシヴァルはらしくなく狼狽した声をあげた。
 鼻面は胸の谷間に、そして頬にあたるのは豊かで柔らかな双丘。
 抱き返そうとして身じろぎしたパーシヴァルは、そこで自分が妙なことになっていることに気がついた。
「っ?」
 ぎしっ。
 首から上が、全く動かなかったのだ。
 体に力をいれ、首を動かそうとするが、絡まったクリスの腕がそれを阻む。(っていうかマジで技かけてませんか、クリス様)
 苦しくはないが、異常な事態にパーシヴァルが動揺しているのをよそに、クリスはまたくすくすと笑った。そして、あいた手をパーシヴァルの頭へとのばす。
 ぐしゃ。
 次にパーシヴァルが感じたのは、自分の髪の毛……というか頭皮に触れるクリスの指の感触だった。
 ぐしゃ、ぐしゃぐしゃぐしゃ……。
 パーシヴァルの驚きなどそっちのけで、クリスはパーシヴァルの頭をかきまわす。わけもわからず、パーシヴァルがおとなしくしていると、クリスはやっと手を離した。離れたぬくもりの代わりに、乱れたパーシヴァルの髪が頬にかかる。
「クリス様?」
 幾度か瞬きを繰り返してから、もう一度見上げた恋人は、それはもうこれ以上ないというくらい満足げな顔で笑っていた。
「よし、でーきたっ!」
「できたって何ですか、クリス様! さっきからもう……頭に何かつけました?」
「いや別に? 何もつけたりはしないさ。……ああ、ちょっと待て」
 乱れた髪を押さえようとしたパーシヴァルの手を、クリスが止める。そしてまた楽しそうに彼女は笑った。
「髪を下ろすとやっぱり少し幼くなるんだな、と思ってな」
 楽しげな視線は、パーシヴァルの髪へ。
 クリスの意図を理解したパーシヴァルは、盛大なため息をついた。
「……なんだ、そんなこと」
「そんなこととはないだろう。だいたいお前、いつも隙がなさすぎなんだ。ちょっと髪が乱れてるな、と思ったらすぐにきちっと整えるし」
「髪を下ろした私なんて、簡単にみれますよ」
 ため息ひとつついて、体を起こすとパーシヴァルはクリスを抱き上げた。
「うん?!」
「一緒に風呂に入ればいいんです。シャワーをあびれば嫌でも髪は下りますから」
 髪の洗いあいっこしましょう、と提案されて今度はクリスがあわてた。
「ちょっ……今はまだ昼間で……」
「昼間っから人の顔を胸に抱き寄せて誘ってきたのはそちらでしょう?」



 その後、遅い夕食をとったクリスが不機嫌に疲れていたのはまた別のお話。

パーシヴァルの悪戯はよくあることなので、クリス様のいたずらです。
結構、恋人同士ってくだらないことではりあったり遊んだりするもんだよなあ、と。

その後クリスが仕返しにあっているのはご愛敬、ってことで。


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