お題:「スウィートトラップ」
スパイダートラップ

 それはアナタの甘い、罠



「え?」
 恋人の申し出にクリスは顔をあげた。
 にこやかに笑いながら、パーシヴァルは先ほどの言葉を繰り返す。
「そろそろ部屋に戻ろうかと思いまして」
「だって明日は休みで……」
「だから、明日のお出かけに備えて部屋で用意しようかなと思っていましてね」
「そうなのか?」
 クリスは、立ち上がるパーシヴァルを見上げる。
 今日は、本当に久々のデートの日だった。
 珍しく与えられた二人そろっての休暇。それも連休。
 だから初日の今日はゆっくり過ごしてそのままパーシヴァルを部屋に泊め、明日一緒に出かけようかと思っていたのに。
 しかし恋人はまだ宵の口のうちに帰ると言う。
 久しぶりに気兼ねなく愛し合える日だと思っていたのはクリスだけだったのだろうか?
 そんな期待をしてしまっていたのは間違いだったのだろうか?
 ほほえんでいるパーシヴァルからは、クリスが抱いているような欲は感じられない。
 いつも通り、というかいつも以上に綺麗な笑顔だ。
「明日はクリスの好物のチェリーパイを焼きますね。楽しみにしていてください」
 上着を着ながらメニューを語るその口調は楽しげだから、クリスとのデートが不満だったり、気持ちが離れているわけではなさそうだ。
 しかしだとすれば何故。
 そう思っても、パーシヴァルは何も教えてくれない。ただほほえむだけだ。
「では、クリスまた明日」
 もう出て行きそうな恋人の様子に、理由を考える暇などないことにクリスは思い至った。
 とにかく止めなくては。
「パーシヴァル」
 クリスも立ち上がる。
 追いすがるのがはしたないことだとはわかっている。
 しかしあの幸福な時間がやっぱりほしい。
 いや、そんな行為がなくても、
「私は……もっと一緒に……いたい」
 パーシヴァルが、足を止めた。
 その背を追いかけて服をつまむ。
 このぬくもりを手放したくはない。
 今は、まだ。
「行っちゃ……やだ」
 精一杯そう囁いて、真っ赤な顔で見上げた恋人は、

 にやっ

 と非常に人の悪い顔で笑っていた。
「……パーシヴァル?」
「クリス様がそうおっしゃるのなら帰るのやめます。朝まで一緒にというか次の出勤日まで一緒にいます」
「パーシヴァル、お前な」
 一緒にいると言った恋人は、いたずらが成功した子供そのものの顔でそれはもう楽しそうに笑っている。
 パーシヴァルの笑顔の意味するところ。
 それくらい、にぶいクリスでもわかる。
「お前、わざと言わせたな?」
「えー何の話ですか?」
「そんな顔で笑ってたら誰だってわかるぞ! ……お、お前なあ、本気で帰る気かと思ったから、人が恥ずかしいのを我慢して言ったのに!」
「ええそうでしょうねえ。耳まで赤くなっていて、本当にかわいらしかったですよ」
「かわいらしかったですますな!!」
 クリスが怒鳴りつけるが、パーシヴァルは一向にめげない。
「だって一度やってもらいたかったんですよ。貴女に誘っていただくというシチュエーション」
 私のリードが的確なせいで、必要なかったのは確かですが。
 そう胸を張る恋人を、アホと罵倒すべきか、馬鹿と罵倒すべきか。
「お前という奴はもう、どこまで呆れた奴なんだ」
「じゃ、愛想つかせて部屋から追い出しますか?」
「……そのうえずるい」
 睨むクリスを、パーシヴァルが引き寄せる。
「ごめんなさい。でも……甘えたかったんです」
 甘えてキスをねだるパーシヴァルにクリスがあっさり根負けしたのは言うまでもない。


パークリ祭り、お題「スウィートトラップ」で。

もちろん罠をかけているのはパーシヴァルで作成しました。
クリスが純情なのをいいことに、ひどい! ひどいよパーシヴァル!!(笑)
前からねたのあった話を形にできて、楽しかったです。
ストレートならぶらぶ話は書いていて楽しいですね♪


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