状況は最悪だった。
目の前にいる敵の数は実に三十余名。うち騎馬兵が5名。
対するこちらは、ゼクセン騎士団の女神と、疾風の騎士たる自分のみ。
乗ってきた馬は先ほど殺され二人とも
いや、馬がないだけではない。
白銀の乙女と謳われるクリスの鎧も、俺の鎧も返り血と泥で薄汚れていて傷だらけ。
魔法も既に使い尽くした。
業物のはずの愛刀も、刃がこぼれて中心が曲がり、刀身にはべっとりと血と脂が張り付いている。
これでまともに物が切れたらそれこそ奇跡だ。
頭の中で、救援部隊のいる場所と現在位置の距離を計算してみるが、ぞの絶望的な計算結果に、救援部隊が来るまでの時間を計算することを放棄した。
ここは、二人で切り抜けるしかないのだ。
ずっしりと重い剣を、腕のあげている疲労の悲鳴を無視して持ち上げる。
さて、これまでにかなりの数の相手を屠ってはきたが、相手はどれくらいであきらめてくれるだろうか?
生き残るまでに切り伏せなければならない相手の数を計算していたときだった。
「くすっ……」
背後で、女神が笑う声が聞こえた。
この極限状態に、とうとう判断を放棄したのだろうか?
あきらめるということに、一番縁遠いはずのこの女には似つかわしくない行動だ。
目だけで振り向くと、彼女は確かに笑っていた。
「クリス様、どうされました?」
「なんでもない。私の背中を守っているのが誰か思い出しただけだ」
彼女の背中を守る者。
当然パーシヴァルのことだ。
「お前が背中を守っているのなら大丈夫だ、まだ戦える」
自信に満ちた、断言。
今度は、自分の頬がゆるんだ。
「パーシヴァル?」
「私も、誰の背中を守っているか思い出しました」
パーシヴァルは剣を構え直す。
「貴女を守らねばならないのに、死ねるわけがありませんでした」
「そうだな」
背中をあわせて、同時に息を吸い込む。
生き残るために。何より、この背中を守るために。
パーシヴァルは駆けだした。
パークリ祭り、お題「背中」で。
お互いの背中を守るパーシヴァルとクリスです。
ちょっと殺伐とした話ですが、騎士である彼らには似合いのシチュエーションでもありましょう。
ちょっと短めの小品ですが、楽しんでいただければ嬉しいです。
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