fortune success

「勝った……な」
 目の前の状況を呆然と見渡してから、カイルはつぶやいた。
 広がる景色は、ファレナの豊かな草原と森。そして戦闘後の当然の惨状として転がる骸の山。
 骸の大半は、カイル達が屠ったアーメスの兵隊だった。
 女王交代で揺れるファレナに、これ幸いと侵攻してきた精鋭部隊。
 恐らく、このまま進軍していたらソルファレナに迫っていただろう一軍だった。だがその進軍はあっさりと阻まれた。
 まだたった16歳の一義勇兵カイルのたてた奇襲作戦によって。
「勝っちゃった……」
 カイルは確認するようにもう一度つぶやく。
 周りの義勇兵仲間達も神妙な顔で頷いた。
 勝って生き残った。その事実を全員がやっとかみしめる。
 生を実感したら、驚きは笑いに変わった。
「は、はははははははっ……な、なんであの作戦で勝てるんだよ………!」
「俺が知るかよっ。あんな馬鹿馬鹿しい作戦に普通引っかかるか?!」
「ひっかかったんだからしょうがないだろ……」
 カイル達は、お互いの背を叩きながら、げらげらと笑い続ける。
 そう、笑いたくなるくらい、しょうもなくて馬鹿馬鹿しい作戦だったのだ。
「こんなこと、カイルが言い出したときにはどうなることかと思ったけど、やってみるもんだなあ」
「だから言ったでしょー。アーメスの連中は頭固いんだって」
「カイル、お前が柔らかすぎるんだよ」
「ひどいなー。俺、一番生き残れそうなこと言っただけなのに」
 むちゃくちゃとしか言いようがないことを言ってそのまま実行したバカは拗ねるふりをする。更に笑い声があがったとき、異質な音が響いてきて彼らの笑いを遮った。
 馬が大地を蹴る馬の蹄の音。
 全員がそちらを向くと、奥に待機していたファレナ軍の本陣から馬が何頭かこちらに向かってくるところだった。
 驚いたことに、騎乗している人間は全員黒地に金の刺繍が施された豪奢な鎧を身にまとっている。
 その目を引く衣装は戦場にいる誰もが知っている。ファレナ女王国最強の騎士女王騎士だ。
 女王国軍の要であり、王族を守護することを任務としている女王騎士は、他の一般兵とは格が違う。
 慌てて居住まいを正そうとして兵達は、その中に女王騎士長までが混ざっていることに気がついて顔を青くした。
 女王騎士に声をかけられるだけでも珍しいことだというのに、その長であり現女王の夫までが出てきたのでは、一般兵はその場で固まるしかない。  それでもなんとか頭だけは下げていると、馬は彼らの目の前に止まった。
 馬上から、快活そうな男の声が響く。
「アーメス軍撃退ご苦労! 俺もさすがに今回はやばいかと思ったが、お前達の活躍のおかげで助かった。礼を言う」
 平伏しつつも、こっそり目だけ上げると、言葉をかけてくださっているのは女王騎士長様のようだ。
 くつくつと、楽しそうに笑っている。
「それで? このバカな作戦をたてて実行に移した大馬鹿者はどいつだ?」
 言われて、兵達は一様に顔を見合わせた。
 勝利こそ手に入れたとはいえ、実はこの作戦、命令違反ぎりぎりのものなのだ。下手に上層部に進言して、首謀者が責められたのではたまらない。
 騎士長は苦笑した。
「そう神妙そうな顔をするな! 単に大活躍をしたバカに酒でも奢ってやろうかと思ってるだけだ。今回の大勝利に関しては、褒美を与えこそすれ、誰も罰しようとは思ってない」
「はーい。バカは俺でーす」
 騎士長が言うと、すぐに手があがった。
 体を起こして立ち上がったカイルを見て騎士長が笑う。
「なんだ、女に手が早いカルそうな伊達男と聞いていたがずいぶんくたびれてるな?」
 言われてカイルは自分の顎をさすった。
 そこには、ほったらかしだったせいでまだらに伸びた髭がある。髪も伸ばしっぱなしでぼさぼさで、鎧装束もかなり汚れて壊れかけている。
「こんな女の子もいないところで二ヶ月かけずり回ってたらこうなりますよー。騎士長様ー、奢ってくださるお酒の席には女の子いますー?」
「女性兵でよければ女王騎士連中がいるぞ。あと、義妹も呼べば来るだろ。全員美人だからな、文句はなかろう?」
「それはさいっこーですねっ!」
 目をきらきらさせているカイルと、楽しげな騎士長の様子を見ながら、一般兵達は心の中で悲鳴をあげた。
 ファレナ最高の騎士と、女王の実の妹。
 雲の上の上としか思えない位置の女性達と一緒に本気で酒を酌み交わすつもりなのだろうか。
「じゃあ決まりだな。ザハーク! このバカを馬に乗せてやれ。兵士の撤収をした後、俺の天幕で宴会をする」
「え?! これからすぐですか?!」
 女王騎士長の命令に、初めてカイルが反駁する。
「なんだ、今最高だと言ったじゃないか」
「女王騎士様やサイアリーズ様とご一緒できるのはすごく嬉しいのですが……俺、今髭も髪もぼっさぼさですから」
「それじゃちょっと恥ずかしい、か。確かにお前の年齢では無精髭を生やしても様にならんな。では風呂も用意させよう」
「ありがとうございます!!」
 いそいそ、とカイルはザハークの後ろに乗る。
 その遠慮のなさに騎士長はまた笑う。
「そういえば名前を聞いてなかったな。お前、名前は?」
「カイルです」
「そうか。カイル、髭をそるついでに髪も整えたりするか?」
「そのつもりですが」
 カイルは自分の髪をつまんで不思議そうに騎士長を見た。ここ数ヶ月、義勇兵として走り回っていたせいで元は短髪だった髪がすっかり長髪である。せっかく湯を使わせてもらえるのだから、綺麗に整えようと思っていたのだが。
「だったら髪は毛先を整えるだけにしてそのまま伸ばせ。女王騎士は髷を結わんと様にならん」
「……へ」
 カイルが騎士長の言葉の意味を掴みかねている間に、馬は本陣へと向かって発進した。
「この国最高の女達を守る仕事だ。女好きのお前には適任だろ?」
「まじっすかーーーーー?!」
 カイルの叫びは、馬に運ばれて長く尾を引いて草原に響き渡った。

カイル君8年前ねつ造話です。
なんとなくフェリド様との出会いが書きたかったというか
少年カイルが(今とあんまりかわらないよ)書きたかったというか。

馬鹿馬鹿しい作戦の内容については、あえて描写はスルー。
ウソみたいな大活躍をして、女王騎士に抜擢されたそうなので
話題にはしてみました。

実際、何をやって抜擢されたのか、すごく気になります。


SSその後。
風呂から出てきたら、服が用意されていた模様。
うきうきと着替えをしようとしたら、そこにはおなじみの刺繍の入った服が…………!!
フェリド閣下の言葉が本気だと実感して、改めてびっくり中



ねつ造少年カイル君。
まだ髪は短髪だったらいいなあ。




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