コインを投げて、道を決める。
それで俺の行く道が決まる。
俺行く先はその程度で決めてしまえる。
ヴィクトールは、手の中のコインを握り締めた。ハイランドが滅んで数ヶ月後、国が安定したのを見届けて、彼はブラック国を後にしていた。
これといってあてはない。
まさに足の向くままといった感じだ。
数年前までは、確かな目的があった。
故郷を滅ぼした憎むべき敵……ネクロードを倒すことが彼の旅の理由だった。しかし、ネクロードは激闘の末、滅ぼしてしまった。
奴を封じること自体は別に悪いことではない。だが、気が抜けたのは確かだ。
一度、奴を倒したと思い込んでいた時期は、古い友人アナベルに頼まれて傭兵を指揮していた。
彼女が死んだ後も義理やら義憤やらにかられて戦争に参加していたが、今はもうそれも終結してしまっている。
縛るものはなにもない。
行くあてがないのは、どこへも行けないのと同じではないだろうか?
前に進むべき所がないのなら、留まればよいのではないかと、同郷のバーバラが呆れたように言っていた。しかし、所詮自分は戦争屋。火種のないところに長い間は留まれない。
誰か人が留まる場所とはその人の故郷だ。
ヴィクトールに故郷はない。
故郷たる土地はある。だが、そこは故郷と言えるのだろうか。
故郷は一度滅ぼされた。
場所自体は新しい国の本拠地として生まれ変わり賑わっている。だが、それはもうヴィクトールの故郷ではない。
人の心の帰る所は人が作るものだ。いくら活気に満ちた所へと場所が生まれ変わろうとも、そこに彼の知る顔はない。
「ヴィクトール、道が別れてるぜ」
前を歩く青ずくめの青年がヴィクトールを振り返った。
「わかってるよ。そういや宿を出てくるときにきちんと決めてこなかったからなあ。どうする?」
フリックは苦笑して肩をすくめた。
こいつも故郷を失った一人だ。
彼の生まれ故郷自体は健在だ。だが、心の帰る場所はとうにない。
心の底から愛した女を失い、その夢を次ぎ、それを成就させたとき、彼もまた目的と故郷を失った。
「じゃあこれで決めるか?」
ヴィクトールは持っていたコインを相手に見せた。フリックは一瞬目を丸くしたが、やがてあきらめたようにため息をついて肩を落とす。
「好きにしろよ」
「じゃあきまりだな」
ヴィクトールはコインをほうり投げた。
コインを投げて、道を決める。
ただそれだけで決めてしまえるほど、人生に重みがない。
けれど、
まあ、それでもいいのかもしれない。
大昔のHPに掲載していたSSをサルベージ。
なんだか虚無的なヴィクトールですね……
でも彼ってこういう闇を抱えていると思うのです。
戻ります