I'm your present.

「ううん」
 ビュッデヒュッケ城の中庭で、シャロンはうなった。
 とがらせたり笑ったり舌を出したりと、いつもは忙しい口をへの字に曲げて考える。
「お嬢さん、悩みすぎはよくないですよ」
 ショーケースの前で仁王立ちされて、ゴードンが苦笑しながらシャロンにそう言う。しかし、シャロンはまだ悩んだままだ。
 彼女の買い物。それはフッチへのクリスマスプレゼントだった。
 クリスマスまであと一週間。
 シャロンにとっては、竜洞の外で過ごす初めてのクリスマスだ。
 しかも、嬉しいことにイブの夜はフッチと二人で過ごすことになる。(クリスマスパーティーは25日に城全体でやるのだが、イブは家族や恋人で過ごす人が多いため、イベントごとはない。フッチに他に一緒に過ごす人がいないのは調査済みだ)
 これを機会にフッチに告白! とまではいかないまでも、少しはフッチの気をひきたい。だから、できるだけフッチの気に入るようなプレゼントを用意したいのだけど。
「結構……難しいな」
 ショーケースをにらみながら、シャロンはまたうなる。
 竜洞の外で迎えるクリスマスは、自然にフッチと二人きりになれて嬉しいのだけど、その反面お小遣いに余裕がなくて、なかなか大人の男に似合うようなかっこいい品物には手が届かない。
 フッチのことだから、何をあげてもそれなりに喜ぶのはわかっているけど、折角のイベントだというのに、子供らしいプレゼントだとほほえましい気持ちになられては、意味がない。
「やっぱり手作りとかにしたほうがいいかなあ」
 セーターや手袋、食べ物ならば、材料費だけですむからシャロンのお小遣いでもなんとかなる。
 だが、それでフッチの気が引けるほど、シャロンは器用というわけでもないのがつらいところだ。
(自分で作ったって時点で、フッチは喜んでくれると思うけどさ……)
「ねえゴードン、もっと手頃な値段で、大人の男の人が喜プレゼントって、ない?」
「大人の男……と言われると難しいですね。このアクセサリーなどはフッチ殿に似合いそうですが……」
「……うーん」
 しかしそのアクセサリーは、シャロンのお小遣いの倍の値段だ。
「女性だけの……裏技というのもないわけではないですが」
「裏技? 何それ」
「一回きりの裏技ですよ」
 ゴードンは、シャロンの耳に口を近づけて、その「裏技」の内容をささやいた。





「メリークリスマス、フッチ!!」
 ぱあん、とシャロンは勢いよくフッチに向かってクラッカーを鳴らした。
「こらシャロン!! 人に向けるなって書いてあっただろ!!」
「しーらない。細かいこと気にしないって」
「細かくない! もう、シャロンはクラッカー禁止!!」
 叱りつけながら、フッチはシャロンの手からクラッカーを奪い取った。シャロンはわざとむくれてみせる。
「フッチのけちー」
「取り上げられるようなことをするのが悪いんだろう!」
 クリスマスイブ。
 シャロンは予定通りフッチと二人でクリスマスを祝っていた。
 メイミにわけてもらった小さなケーキと、アンヌの酒場でフッチが買ってきたシャンパン(今日はシャロンもお酒を飲んでいいことになった)でささやかなお祝いである。
「まあまあクリスマスだし、そう怒らないでよ、フッチ」
「怒る原因そのものの君が言わないでくれ」
 フッチのグラスに、無理矢理シャンパンを注いでシャロンはフッチの文句を無視する。
「じゃー今年も恋人がいないフッチに乾杯!」
「はいはい、今年も恋人がいないのは同じのシャロンに乾杯」
「ボクは、一人きりになるフッチがかわいそうだからつきあってあげてるのー」
「そういうことにしておくよ」
 不機嫌そうなフッチと軽くグラスを交わしてから、シャロンはシャンパンを飲む。苦いビールは嫌いだけど、甘いシャンパンは飲みやすくて好きなのだ。
「えっとね、フッチ。今年は二人だけだしさ、ボクからフッチにクリスマスプレゼントがあるんだ」
「君から僕に?」
 プレゼントを用意しているとは思わなかったのか、フッチが軽く目を見開いた。シャンパンをあけていた手が止まる。
「へえ、嬉しいな。どんなもの?」
「これ!」
 シャロンはにま、と笑うと自分の頭にちょうちょ結びになったリボンを乗せた。
「ん? 君がおしゃれしてどうするの」
「おしゃれじゃないよー。ラッピングだもん! フッチへのプレゼントは、ボク自身!!」
 がしゃん。
 シャロンが言い切った瞬間、フッチはシャンパングラスを落っことした。
 硬直して引きつったまま、耳まで赤くなる。
「しゃ、しゃしゃしゃシャロン?????」
 ありえないくらい慌てたフッチの顔がおもしろくてシャロンは爆笑した。
「なーんちゃって、冗談に決まってるじゃん、フッチー! ほんとのプレゼントは手編みのマフラー。ちょっと目があってないけど、ぎっしり編んでるから風が強くてもあったかいよ……って」
 本命のマフラーを袋から取り出そうとしたシャロンは、フッチの様子がおかしいことにきがついた。
「……あああああ、そ、そういうことはだな、ちゃんとお互いの気持ちを考えて……い、いやその僕が君が嫌いとかそうじゃなくて……あ、え、えっと、プレゼントって言ってくれたってことは、シャロンは……」
「フッチ?」
 シャロンはフッチの目の前で手をひらひらさせてみた。
 狼狽しきったフッチはシャロンの言葉なんか聞いちゃいない。
「フッチー?」
 真っ赤で熱いフッチの顔をがし、とつかんで耳元で名前を呼んでみる。
「うわわわわわ、だ、だからそういうことはまだ早い!!」
「フッチ……今冗談って言ってたんだけど」
「冗談……冗談じゃなくて……え?! 冗談?!!!」
 フッチは『愕然』という言葉がぴったりくるような顔で、口を開けたまま今度は固まった。
「ほんとは、マフラー作ったんだけど」
「……そ、そう、か」
 フッチは、へなへなと脱力する。
「フッチはボクがプレゼントじゃなくて、ちょっと残念?」
「え」
 ぴき、とフッチはまたおもしろいくらいに硬直した。
 フッチが自分を意識しているのがおもしろくて、シャロンはわざとフッチに抱きつく。
「やっぱりそうなんだー!!」
「う、ちょ、ちょ、ちょっと待て!! 大人をからかうんじゃない」
「ボクがプレゼントだと嬉しくない? 嫌?」
「嫌とかそんなわけないから困るんじゃないか……! ああもう」
 フッチは盛大なため息をついた。
「フッチ?」
「もう語るに落ちてるよなあ……」
「フッチ? どゆこと?」
「あのね、シャロン……僕は、確かに君がプレゼントだと嬉しいよ」
「本当?」
 フッチはだきついたままのシャロンの背中に腕を回した。
「それがどういう意味か、君はわかってる?」
「え……と、ボクのこと……スキ……?」
 フッチは笑った。そしてシャロンの瞳をまっすぐ見つめる。
「それだと半分正解、かな」
「半分、なの?」
「そう。僕はね、君が好きで、それから君が欲しいと思ってるんだよ……?」
 するり、と背中に回っていたフッチの手が服の中へと滑った。『欲しい』の意味を理解したシャロンがびくりと体を震わせる。
「ちょ、ちょっとフッチ!! さっき冗談って言ったじゃない!」
「でもそのあと、プレゼントだと嬉しいかって聞いたじゃないか」
「聞いただけであげるとは言ってないー!」
 真っ赤になってフッチの腕から逃れようとするシャロンを見て、今度はフッチが吹き出した。
「何笑って……フッチ! からかってるでしょ!!」
「君だって僕をからかったからね。お返し」
「たちの悪いからかいかたしないでよっ!!」
 さっきまでまったく同じことをしていたのを棚に上げてシャロンが怒鳴る。
 フッチはくすくす笑ってシャロンの頭をなでた。
「まあまあ。でも、僕が君のことを好きだってことは、嘘じゃないよ。それじゃ嫌かい?」
 好き、の一言にシャロンはフッチの胸板を叩いていた手を止めた。
「本当?」
「本当。機嫌、なおった?」
 なんだか、からかったつもりがしてやられた気がして、折角告白してもらったというのにシャロンは不承不承頷いた。

 

フチシャロクリスマス。
 フッチくんからかわれて白旗をあげるの巻です。

大人がその程度で負けてちゃだめじゃん。
でも大人だから有効ないたずらだったり……げふげふげふ

完全にへたれにするつもりが、最後の最後で反撃にでてしまいました。
二重にだめじゃん、フッチ!(おい)



>かえりまーす