Kiss me please.

 ざわ、とパーティー会場が騒がしくなったのを感じて、パーシヴァルは顔をあげた。
 さわさわ、と表だった動きではないが来場客は何かを見て、囁きあっている。
(なんだろう?)
 パーシヴァルは、極上の笑みでもって、今まで話していた女性達から離れると、辺りを見回した。
 今日は、ビュッデヒュッケ城をあげてのクリスマスパーティー。六騎士をはじめ、ゼクセン連邦、ハルモニア、シックスクランの人間までも加わった盛大なものだ。当然パーシヴァルも騎士団代表としてドレスアップして出席している。
 半年前までは考えられなかったほどのおだやかなパーティーなだけに、下手な騒ぎは防がねばならない。警戒してざわめく人々の視線をたどっていたパーシヴァルは、騒ぎの元凶を見つけてかすかに笑った。
 会場の視線を集めているもの。それは誉れ高きゼクセン騎士団の戦女神にして団長である、クリスだった。
 といっても、何か騒ぎ立てているわけではない。
 普段なら絶対に着ない華やかなドレスを着て、会場の隅で立っているだけだ。人混みに酔ったのか、少し疲れた表情をしている。
 彼女の周囲を見て、何故彼女が注目されているかを理解したパーシヴァルは、もう一度会場全体を見渡した。
 ボルスは会場の反対側の端で傭兵隊にからかわれている。ロランは楽団の側で音楽鑑賞。レオはケーキに舌鼓をうっているし、サロメはデュパ族長につかまって何事かしゃべっている。
(……よし、これなら)
 めざとくクリスの様子に気がついた中年男、ナッシュを軽く睨み『あんたは出てくるな』と牽制してから、パーシヴァルはクリスの方へと移動した。
「クリス様」
 パーシヴァルが声をかけると、クリスは微笑んだ。
 ざわ、と更に会場のざわめきが激しくなる。
「ああ、パーシヴァルか」
「どうされたのです? あなたのように美しい方が、壁の花などもったいない」
「私がダンスが苦手なのは知っているだろう?」
 パーシヴァルは苦笑する。
「お一人でいらっしゃるのがもったいないと申し上げているのです」
「お前らしい台詞だな。……ん?」
 笑っていたクリスは、そこで言葉を切った。
 どうやら、周囲の視線に気がついたらしい。
「どうしたんだろう? 何故か見られているような気がするのだが」
 クリスは辺りを見回す。客たちは、そそくさと視線を外した。
「……なんだ?」
 心底不思議そうなクリスに、パーシヴァルはくすくすと笑い出す。
「パーシヴァル? お前理由を知っているだろう!! 笑ってないで教えろ!」
「あれですよ、あれ」
 怒鳴るクリスに、パーシヴァルは笑いながら天井を指さして見せた。そこには、小ぶりな照明が一個ぶら下がっている。
「照明……?」
「飾りをよく見てください」
 照明には小枝を編んで作ったリースが飾りに巻き付けられていた。少し高い位置にあるが、枝葉の様子からヤドリギのリースだということがわかる。
「ヤドリギの飾りがどうしたっていうんだ? ……え? ヤドリギ?!」
 ヤドリギの意味を思い出したクリスは、耳まで真っ赤になった。
 地面に根を張らず、他の樹に寄生して育つヤドリギ。どこからともなく生えるヤドリギは、子宝、実りの象徴として扱われ、クリスマスではヤドリギの飾りの下に立つ女性は、男からのキスを拒んではいけないという言い伝えがある。
 知らなかったとはいえ、「キスしておっけー」な位置に、女神が立っていたらそりゃ誰だって騒ぐ。
 状況を理解して、呆然としているクリスを、パーシヴァルは強引に抱き寄せた。
「え、あ?」
 クリスにひっぱたかれるのが先か、ボルスに斬りつけられるのが先か。
 命の危険を感じつつも、パーシヴァルはクリスの唇に酔いしれた。

 

クリスマスねたの王道ですね、ヤドリギねた。
樹にぽっこりと丸く葉をつけるヤドリギは、
海外ではクリスマスによく見られる飾りであり、
その下にいる女性にはちゅー(拒んだら、子宝に恵まれなくなるんだそーで)してOKなんだそう。

このあとパーシヴァルが、どんなことになったかは知りません。


>かえりまーす