クリス的婿基準

「おしかけちゃってすいません! クリス様!」
「いや、こういうことはしたことがなかったから、私も楽しいよ」
 パジャマ姿で寝転がるセシルに、同じくパジャマ姿のクリスは笑い返した。
 ビュッデヒュッケ城、クリスの私室。いつもはベッドと執務机くらいしかないその部屋に、今日は大量の布団が持ち込まれていた。床に敷き詰められた敷布団の上で、パジャマ姿の少女達が笑いながら寝転がっている。
 俗に言う、パジャマパーティーである。
 そもそもベルの発案で、シャロン、サナエ、エミリー、セシルと誘ったはよいが、夜中大人数で集まれる場所はそうない。そこで、広い部屋をまるまる一つ使っている女性……クリスを巻き込んだというわけだ。クリスがいるなら私も混ぜなさいよ、とリリィも参加し、今部屋の中には七人もの人間がいた。
 女の子が集まって夜中にする話といえばこれ、と流れは当然のように恋愛話へと向かう。
「このお城って、かっこいい人多いよねー」
 ベルが足をぱたぱた振りながら言った。一人だけ浴衣姿で、きちんと正座したサナエがくす、と笑う。
「確かに、りりしい方が多いですわね」
「でも、ベルのかっこいい人って、一人じゃない?」
 竜騎士見習シャロンがあお向けになりながら言う。む、とベルが膨れる。
「何よ、一人って」
「この前、目安箱にラブレター入れてたでしょ。ボク見ちゃった」
「シャロン!」
 目安箱にラブレターということは、彼女のお目当ては炎の英雄、ヒューゴらしい。結構お似合いなその様子を想像して、クリスが笑う。
「でもでも、かっこいいけど、そのうえ強い人って少なくない?」
 格闘少女、エミリーが言った。
「エミリーの理想って、自分より強い人だよね!」
 いつもは鎧のなかに押し込んでいる長い金髪をまとめながら、セシルが言う。うん、とエミリーは頷いた。
「強くてかっこいい人に、お姫様みたいにして守られてみたいんだあ」
「じゃあ、ジョアンさんなんかどう? あの人強いじゃない」
 ベルが言う。エミリーはうーん、と思案顔になった。
「でも師匠寝てばっかりだからなあ……危機になっても寝てそう」
「ジョアンって、寝起きの紋章つけてるんでしょ? この間ヒューゴが知らずに連れ出して苦労してたわよ」
 リリィが苦笑いになった。彼女もそのとき同行していたらしい。サナエが、そういえば、と言い出す。
「腕力でいったら、ワン・フーさんとか、ハレックさんとかはいかがですか?」

「……サナエ、あたしあんな汗臭そうな人たちはヤだ

「え、ええ? そうですか?」
 彼女は存外驚いたようだ。少女達は、彼女の感覚をいぶかしむ。
「そういうこと言ったら、ボクも強くてかっこいい人がいいな」
 シャロンが行儀悪く寝転がったままお菓子を食べつつ言う。ベルがにや、と笑った。
「シャロンの場合―、強くてかっこよくて、竜に乗れる人じゃない?」
「竜洞にいるんならそれが理想だけど……ベル! 誰のこと言ってるのさ!」
「えー、フッチさんかっこいいじゃない! 強いし! ね、エミリー!」
「うんうん。あの人こんなにおっきな剣片手で振り回してたもん」
「待ってよ! あいつ今29なんだよ? 分かってる? ボクが大人になるころ、あっちはオジンになっちゃってるよ!」
 サナエが天井を見上げるようにしてすばやく計算。
「ええと……十五歳年上なのでしたっけ」
「そう! だから……えっとリリィやクリスがナッシュとつきあうようなもんなんだよ!」
 ぶふうっ。
 大人二人が、静かに飲んでいた酒を吹きだした。
「確かにあんなくたびれたのは遠慮したいわね」
「リリィ……それはナッシュに対して失礼なんじゃ……」
 ある意味アリな気がしなくもないが。少女達は納得したらしい。
「なかなか理想っていないものだよねえ」
 シャロンがため息をつく。セシルがそれに笑いかけた。
「でも! だから頑張っていい人を見つけなきゃ! ファイトだよ!」
「セシルはいいじゃない。理想がもういるんだから」
「え、ええ?」
「そうそう、髪の毛が茶色くって」
 ベルがにやりと笑い、
「ちょっと小柄で」
 シャロンが意味ありげにセシルを見、
「気が弱そうなんだけどぉ」
 エミリーがあはは、と笑って、
「いざとなったら頼りになる方」
 サナエが目を細めた。
 それを聞いて、クリスが納得した、と手を打つ。
「ああ、セシルが好きなのはトーマス殿だったな」
「クリス様!」
 セシルの声は悲鳴のようだった。
「クリス、こういう場合はずばり言っちゃだめよ」
 親友のアドバイスに、クリスは混乱する。
「そ、そうなのか?」
「そうなの! でもセシル、いいじゃない。トーマスもまんざらじゃないんでしょ?」
「そんな……トーマス様は城主様ですし……」
 身分なんて関係、ないじゃなーい、と少女達はセシルの迷いを笑い飛ばした。(年齢に関しては文句をいっていたくせに)
「そういえば、サナエの好みはきいてなかったなあ。ね、どんな人がタイプなの?」
 ベルがずい、とサナエに顔を寄せた。サナエは顔を赤くして、ちょっと体を引く。
「私ですか? わ、私は……」
 真面目な彼女のこと、騎士達あたりだろうか、と見当をつけていた彼女達は大きく予想を裏切られた。
ゴードンさんとか」

「「「「「「ゴードンんんん?」」」」」」

 全員がどよめいた。
「サナエ、あの妙なナルシーのどっこがいいのよ!」
「ええ? エミリー、そんなに変でしょうか。あの方はいつも丁寧で礼儀正しいじゃありませんか」
「ボク、あれはばか丁寧っていうと思うな」
 シャロンの批評に、皆うなずく。
「ねえ、もしかしてだけど、ほかに好みっていうと……」
 セシルが恐る恐る聞いてみる。
「……オーギュスタンさんとか」
 乙女達は一斉にため息をついた。ベルが頭をかかえる。
「もういい。あんたとは絶対に男の趣味が被らないって安心したわ」
「ベル、ひどいですわ!」
「まあまあ、好みは人それぞれだし」
 クリスが苦笑しつつ、割って入った。そうだ、と今度はベルが身を乗り出す。
「クリスさんとリリィさんは、結婚とか考えてらっしゃらないんですか」
「ええ? 私達か?」
 突然話を振られて、クリスがうろたえる。リリィが平然と答えた。
「まだ結婚なんてことは考えてないわよ。しばらく遊びたいし。大体、好みの男が滅多に見つかんなくって!」
「リリィさんの場合、理想高そうですしね!」
 セシルは屈託なく笑って言う。リリィはつん、と顎をそらした。
「いい? あたしの理想が高いんじゃなくって、あたしがいい女だから、なかなか釣り合う男がいないだけなの! あーあ、どこかにあたしより家柄が上で顔がよくて頭が良くて性格のいい男いないかしら」
 少女達は沈黙する。サナエが眉を寄せた。
「でもリリィさんより家柄が上で顔がいいっていうと……このお城じゃササライさんくらいしか」
「あー、あれねー、性格壊れてるからパス。話すだけなら楽しいんだけど」
「……ですよね」
 それ以外の返答を、少女達は知らない。
「じゃあクリスはどんな人が好みなの? ボク知りたいな!」
 シャロンが聞く。クリスは、天井を見上げた。
 将来、人生を伴にする伴侶。彼女達の希望は、強さだったり、優しさだったり、男らしさだったりするけれど。
 自分が共に在る人に望むことといえば。
「……私は、強い旦那より、かわいいお嫁さんが欲しいなあ……」

 その発言に、部屋は爆笑の渦にのまれた。



なんとなく、クリスってこんなこと考えてそうです
んで、あとでその話をきいたパーシヴァルがやってきて
「料理洗濯なんでもござれのかわいい婿ならいるんですがもらって下さいませんか?」
とかいって迫ってるんですよ、きっと

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