銀髪の町娘


「・・・ナッシュ?どうした、芳しくない表情だな?」

ブラス城内を緊急用出口から出たクリスは、その連れとなる男の顔を見て言った。
連れの男、ナッシュは瞬きを二三度繰り返して笑みを浮かべる。

「いやいや、大丈夫さ。さぁ、行こうか」

そう言ってナッシュはクリスと共にその場を去っていった。
確かに不機嫌な感情はある事にはある。
そして、今度こそはと決意している事もある。
それは。

(絶対、今度は俺から謝らないからな!!!)





シエラ・ミケーネ嬢の機嫌は実に悪かった。
それもこれも先程まで派手な喧嘩をした男が、そのまま旅に出てしまったのが原因である。
不快な気持ちで心を占めていたシエラは、星に埋められた空を軽く飛んだ。
そのまま、ブラス城の上へと進む。
そのシエラの目に、ある光景が入った。

(・・・あれは確か・・・)

ブラス城の上、そこには六人の男達がいた。
シエラはそれが誰だか知っていた。
この街に滞在して間もなくだったが、彼らはこの地の有名人であるので。

(・・・誉れ高き六騎士の者達・・・)

シエラは下降飛行をして、彼らの背後に回った。
勿論、気を消して。

六騎士達の話している内容は、彼らの慕っている上司クリスの件。
そして、彼女を連れて行った男の・・・身の上だ。
あの金髪の男にカミさんが本当にいるのかいないのか・・・。

(怪しい男じゃからのお。疑われても仕方はあるまいな・・・)

シエラは内心苦笑した。
そして、次の瞬間その口の端が上に挙がった。
面白い事が頭の中に浮かび上がったのだ。

途端に彼女の足取りが軽やかなものになる。
その足どりで向かうのは六騎士どもの背後。

(・・・・・ん?)

人の気配に気付き、近くにいた疾風の騎士が素早く振り返った。
背後にいたのは、小柄な美少女だった。

「きゃっ・・・」
「あ、失礼・・・。驚かせてしまいましたか?」

突然振り返られた事に驚いた少女は、少し後ろへとよろめいた。
その彼女の身体を支えて、なんとかひっくりかえることを食い止める。
皆もそちらの方を振り返った。
新しい訪問者が背後から近寄ってくるのは全員気付いていたのだ。


・・・勿論、わざとなのだが。
シエラは内心舌を出し、外見では愛らしい表情を振りまいてみせる。


「いえ。私の方こそごめんなさい」

少女は紅い瞳を少し潤ませながら、首を横に振った。
その表情は少し蒼ざめている。

その時皆が思っていたことは、騎士団長クリスが闇夜に紛れて去っていた事。
それを少女が見てしまったかということだ。
知られては困る内容ではある。
下手に騒がられてはいけないのだ。

皆はお互いの顔をちらりと見合わせた。
まず少女が何を思って顔を蒼ざめているのか、その裏を取る必要がある。

「・・・何か心配ごとでもおありですか?」

最初に言葉を交わしたパーシヴァルがその役目を担う事となった。
気を使う様な表情で、視線を少女に合わせて問う。
少女は頼りなさげに顔を上げて、全員の顔を見回した。
初めて確認する少女の容貌に皆が一瞬息を呑んだ。

上司と同じ銀色の髪。
吸い込まれそうな位美しく煌く紅い瞳。
そして上品なまでの白い肌。
なかなかお目にかかる事の出来ない美少女だったのだ。

「あ、あの・・・、私ゼクセンの者ではありません。
 だから、今見た事は他言無用にします。
 それに対して特に何も感じる事はありません。本当です。」

少女は必死に自分の胸の内を語った。
念の為に、どこの出身の者かと問うと、デュナン共和国出身だという。
理由があって、この地にやってきたのだという。

「・・・宜しければ、その理由を教えては頂けませんか?」

すると少女は言葉が途切らせて、再び紅い瞳が悲しみに潤み始める。
その場にいた全員がぎょっとして慌て始める。
パーシヴァルは何かを言おうとする同僚を止めて首を横に振った。
とにかくここは任せろという合図だ。

「どうされましたか?」
「いえ、いえっ。心配をおかけしてすいませんっ。」

パーシヴァルはハンカチを取り出して、少女に手渡した。
それを受け取り涙を拭う。
そして意を決して面を上に挙げた。

「あの、先程の会話、本当なんですか?ナッシュさんに、お、奥様がいらっしゃるって・・・」
「ええ、その様に聞いておりますが?」

何故いきなりナッシュの名が出てくるのか、そう思いつつもパーシヴァルは答えた。
そして、次の少女の言葉を聞いて、六騎士全員が目を見開くこととなる。
少女はそれまでとは違う、少し怒りに満ちた瞳を向けて大声で言ってのけたのだ。

「あたし、あたし、ナッシュさんから未婚者だって聞いてたんです!だから追いかけてきたんです。
 それに、ナッシュさん、私のこの銀色の髪が素敵だ、俺の好きな色だって褒めてくれていたのに!!」

その後、うわっと手で顔を覆って少女は泣きじゃくり始めた。
その少女を何とか泣き止ませようと男達が一生懸命慰めの言葉をかける。
だが、そんな彼らの心は全く穏やかではなかった。


自分は未婚者だと言った。
つまり自分はフリーだから、恋人募集中だと宣言した。
そして銀の髪が好みだとも言った。
つまり、それは。
次のターゲットはクリスと言う事になるのではないか。
クリスの性格を考えて、未婚者より既婚者であるとした方が近づき易いと考えたのではないか。
そして、この旅で口説き落とそうと考えているのではないか。

そうだ、きっとそうに違いない。
ああ、自分達は何と恐ろしい事をしてしまったのか!!!

そして、彼らの胸の中で誓われたものは唯一つ。

『あのペテン師!クリス様に何をする気だ。戻ってきたら、剣(斧・弓・メイス)の錆にしてくれる!!』

しかし、泣いている少女の前で本音をぶちまける訳にもいかない。
皆で少女を慰めて近くの宿屋を紹介した。
少女はその好意に感謝して、部屋の中へと戻っていった。
騎士達は気になさらずにと声をかけ、自分達は再び城内へと戻っていく。



その宿屋の一室にて。
カーテンを掴んでシエラは窓の外を眺めた。

「上手く隠したつもりだろうが、やはり小僧じゃ、感情が面に出ておったのお」

窓辺から六騎士の背を見送り、シエラはくっくと笑った。
相手は武人だが、あの男も一流のスパイだ。
倒される心配はないだろう。

「妾に謝りもしないで出て行った罰じゃ。これ位、どうということはないであろう?」

理不尽とも言える言葉を口にして、シエラは上機嫌にベッドに横になった。
自分の演技もまんざらではないのおと悦になりながら。


その数ヵ月後。
六騎士の五人+αに狙われるハルモニア工作員の姿がヒュッケビュッケ城で見られた・・・とか。







えっと、これは・・・誰ですか?←最早誰に対してかかってるかは不明(汗)
お題は「嘘」ということで、シエラについてもらいました。
乙女系シエラ様と、巻き込まれたゼクセン騎士団員。
不幸を崇めるので、最後まで不幸にしてみました(笑)




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written by grassforest