赤ずきんちゃん危機一髪!



 むかしむかし、あるところに、クリスという女の子がいました。

 クリスはいつも大好きな赤いずきんをかぶっていたので、みんなに赤ずきんちゃん、と呼ばれていました。

 ある日のことです。

 お庭で剣の素振りをして遊んでいると、お母さんの声がしました。

「赤ずきん、こっちへいらっしゃい」

「はい、ジーンお母様」

 お家の中に戻ると、クリスと同じ、綺麗な銀の髪をしたジーンお母さんがバスケットを一つ持ってクリスを待っていました。

「このバスケットの中にはね、パンとミートパイとワインが入っているの。赤ずきん、これを森はずれのおばあちゃんのところに届けてくれないかしら」

「はい!」

 クリスは元気よく返事をしました。

 おばあちゃんは森のはずれに一人で住んでいて、三日前からご病気で寝込んでいるのです。

「では行って参ります!」

「げんきねえ……うふふふふ」

 お母さんからバスケットを渡してもらうと、クリスは元気よく歩き出しました。





 クリスがてくてく歩いて、森の真ん中まで来たときでした。

「こんにちはお嬢ちゃん」

 茂みのなかから、一匹の狼が出てきました。

 とても綺麗な金色の毛並みと、エメラルドのような瞳をしています。

「お前は誰だ?」

「俺はナッシュっていうんだ。お嬢ちゃんは?」

「私の名前はクリスだ。赤いずきんをかぶっているので『赤ずきん』と呼ぶ者もいるが」

「赤ずきん……それはまた随分可憐な呼び名だねえ。でさ、赤ずきんちゃんは何でまたこんな森の中を歩いていたんだい? この辺りは人もあまり通らないから危ないよ」

 ナッシュは不思議そうにクリスの顔をのぞき込みました。クリスはにっこり笑って腰にさしていた剣を引き抜きます。

「大丈夫だ! これでも剣の腕には自信がある!! 暴漢など一撃で倒せるぞ!!!」

「……っ……あ、あー……そうなんだ(冷や汗)」

「今日は祖母が風邪をひいてしまったので、見舞いの品を届けるところだ。ほら」

 クリスはバスケットの中身をナッシュに見せました。

「お見舞いかあ、偉いねえ。あ、そうだ。お見舞いならいいことを教えてあげるよ」

「いいこと?」

「こっち、こっちにおいで」

 ナッシュはクリスににっこりと笑いかけると、森の奥へと案内しました。

「ほら、こっちを見てごらん」

「わあ……! 綺麗だなあ!!」

 そこは一面の花畑でした。

「おばあちゃんへお見舞いに、ここの花を摘んでいったらどうかなあ? おばあちゃん、きっと喜ぶよ」

「そうだな。そうすることにしよう!」

「うんう……うがっ!!」

 お花を摘もうとしてしゃがみ込んだクリスの後ろに立ったナッシュが、叫び声をあげました。おなかを押さえて地面に転がっています。

「す、すまん!! 急に後ろに立つものだから思わず裏拳が!! 大丈夫か?」

「う……うん……大丈夫……」

 冷や汗をだらだら流しながら、ナッシュは答えました。

「そうか、すまんな。お前が受け身ができてよかったよ。この間熊にこれをやったらそのまま気絶してしまったんだ」

「さ、さいですか……」

 お花を摘むクリスを残して、ナッシュは花畑から出て行きました。クリスから聞き出した、おばあちゃんの家に向かいます。

「あんなかわいい子のおばあちゃんなんだから、きっと歳くっても美人さんなんだろーなあ。赤ずきんちゃんが来る前にぺろりと一飲みしてしまおう」

 うしし、と狼は笑います。

「それからおばあちゃんに変装して、油断した赤ずきんちゃんも一飲みさ」

 ぺろりと舌なめずりをすると、ナッシュはおばあちゃんの家のドアを開けました。

「おや……誰じゃ?」

 家の奥を見ると、小さなベッドで誰かが寝ています。

「こんにちは、赤ずきんちゃんの代わりにお見舞いに来ました」

「ほう?」

 ベッドに寝ていた人は、むっくりと体を起こしました。

「え?」

 ナッシュは目を丸くしました。そこにいたのは、クリスと同じ銀の髪をした、女の子だったからです。クリスよりもずっと年下のようです。

「それははるばるご苦労様じゃのう」

 女の子は血のように赤い瞳でにっこりと笑います。

「ここに住んでいるのは、赤ずきんちゃんのおばあちゃんだって聞いていたんだけど、間違えたかな?」

「間違いではない。わらわが赤ずきんの祖母じゃ」

「……まだ年端もいかない子供に見えるんだけど」

「誰が子供じゃ!!」

 ぴしゃん! と大きな音がして、ナッシュの目の前が真っ白になりました。おばあちゃんが、魔法を使ってナッシュに雷を落としたのです。

「わらわの名はシエラ。こう見えても齢八百を超える吸血鬼じゃぞ? あなどるでないわ!」

「なあっ?! 吸血鬼?!」

 シエラはベッドから降りるとナッシュに近づきました。さっきの雷のせいで、ナッシュは動けません。

「ここのところ『食事』をしていなかったせいで、風邪など引いてしもうたが……ちょうどよい滋養が転がり込んできたものじゃ」

「え? ちょっとあのっ!! 滋養ってなんだよ!!」

「ふふふ」

 にやりとシエラは笑いました。






「おばあさま、こんにちは!」

「おお赤ずきん、よく来たのう」

 しばらくして、クリスはおばあちゃんの家につきました。ドアを開けると、シエラがにっこり笑っています。

「お見舞いに来ました。これ、おみやげです」

「それはありがたい。して、後ろの黒い男は何じゃ」

 クリスは後ろを振り返りました。そこには、真っ黒い髪をした、片目の猟師さんが立っています。

「この人はゲドさん。私が森を歩いていたら、最近このあたりに狼が出て危険だからといって送ってくれたのです」

「……よろしく」

 猟師さんのゲドは、ぺこりとお辞儀をしました。

「そうかえ。ご苦労じゃったのう」

「おばあさま、随分具合が悪いと聞いていて心配していたのですが、お元気のようですね」

 にこにこしているシエラに、クリスが不思議に思って聞きました。

「ちょうどいいところに狼が一匹やってきて、看病してくれたからのう。おかげで元気になったのじゃ」

「狼?」

 ゲドがびっくりして聞きました。

「大丈夫じゃ。たいして害はない。ほれ、今もそこで寝ておるぞ」

「……え?」

 クリスとゲドが見てみると、シエラがいつも寝ているベッドからはみ出すようにして、ナッシュが寝ていました。

 どうしたのでしょう、ナッシュは服を着ていません。

「ナッシュめ、なんでこんな所で寝てるんだ」

「看病疲れじゃ。慣れぬことをして疲れたのじゃろう」

「そうなんですか……おーい、ナッシュ、大丈夫か?」

 クリスは心配になってナッシュの顔をのぞき込みました。おや? 泣いているようです。

「ごめん……ちょっと……そっとしておいて」

「はあ? いやだって気になるだろうが。本当に大丈夫か? 顔が青いぞ、貧血か?」

「お願いだから……」

「……放っておいてやれ」

 ゲドが、クリスの肩をぽんと叩きました。

「そうじゃそうじゃ。赤ずきん、こちらへおいで。わらわが茶をいれてやろう」

「はーい」

 クリスがシエラのお手伝いを始めて、ナッシュはほっとため息をつきました。ナッシュの肩に、ゲドの手が置かれます。

「……ま、がんばれ」

「…………とってつけたように同情しないでくれ!」






 それからしばらくして、赤ずきんちゃんのおばあちゃんの家には、金色の毛並みの狼が住み着くようになりました。

 めでたし、めでたし。




ナッシュ「めでたくねえっ!!」











前に予告しておいたSSが、初日同様煮詰まってしまったので急遽書き直しました。
赤ずきんちゃんを幻想水滸伝の配役でどーぞって感じの話です。

とりあえず、銀髪つながりで配役しましたが、
親子関係そのほかはツッコミ入れちゃだめです
ただし、大人の深読みはOK。


馬鹿話、笑ってくださればこれ幸いです。



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