それは祈りの姿だった。
丘の上にただ一人、膝をついて頭を垂れる銀の騎士。
明かりひとつない闇の中、騎士の姿は皓々と浮かび上っていた。
彼女の纏う銀の鎧と銀の髪が月光をはじいて輝く。
騎士は、女だった。
新雪の綺麗なところだけを集めて作られたかのような、端正な美貌の女騎士。
白銀の無骨な手甲に包まれた手は胸の前で堅く結ばれている。
祈りとともに示される拒絶。
姿の見えなくなったその騎士を探しに来たパーシヴァルは、彼女にかけようとしていた言葉を飲み込んだ。
遠くから、りん、ごん、とどこかの教会の鐘の音が風に運ばれてきた。
騎士は祈る。
りん、ごん。
鐘に聞き入りながら、ただひたすら。
りん、ごん。
白いその横顔に憂いを浮かべて。
りん、ごん。
祈る騎士はひどく美しい。
りん、ごん。
しかしその姿は、凄烈にすぎて。
りん、ごん。
見つめる者の胸を締め付ける。
りん、ごん…………。
ようやっと鐘の音が止まった。
祈りとともに閉じられていた瞼がゆっくりとあげられ、アメジストの瞳が光をとりもどす。
体から力を抜いて、組まれた手を外すと騎士は立ち上がった。
「クリス様」
囁くように声をかけると、騎士は驚いて振り向いた。
「パーシヴァル?! いつからそこに?」
「ついさっきですよ。急に姿が見えなくなったので探しに来たのですが、声をかけてはお祈りの邪魔かと思いまして」
「……そうか」
祈っていた姿を見られたことが気恥ずかしいのだろう。クリスはぷい、と視線をそらせた。
「ずいぶん熱心でしたけれど、何を祈ってらっしゃったのですか?」
「いろいろ……かな」
クリスはパーシヴァルを見ないままそう答える。
「ゼクセンの民が平和に暮らせますように、とか、次の戦いでできるだけ部下が死にませんように、とか、クリスマスだっていうのに戦闘がまだ続きそうな馬鹿馬鹿しい状況がさっさと終わらないかな、とか」
なかなか実現しそうにないけれど。
笑いながら祈りの内容を告白したクリスの耳に届いたのは、パーシヴァルの重いため息だった。
「パーシヴァル」
「確かいにその祈りの姿勢はすばらしいですけどねえ」
「なんだ。子供みたいで呆れたか?」
「呆れたのは確かですが」
むっと不機嫌になったクリスを、パーシヴァルは真剣に見据えた。
「ゼクセンと兵を気遣うのは、団長として正しいありかたです。……ですが、クリス様、その祈りの中にちゃんと貴方の幸せは含まれていますか?」
「私の?」
誉れ高きゼクセン騎士団長クリス。
部下をよく想い、民を憂うる彼女は、他者の幸せを想うばかりに自分のことを顧みないことでも有名だ。
パーシヴァルの質問に対してもやはり、
「ああ、そういえば自分自身のことに関しての祈りはなかったな」
「貴方自身を守れないようでは、他者を守ることはできませんよ」
少々不機嫌にパーシヴァルがとがめると、クリスはくすくすと笑った。
「それについては大丈夫だ。自分の運命は自分で切り開いていけるし、何より、私を幸せにしてくれる人間がそばにいるからな」
笑いながらそっと手を絡められて、パーシヴァルは少し息をのんだ。
「……そんなところだけ他力本願ですか?」
「悪いか?」
パーシヴァルはクリスを抱き寄せる。
かしゃん、とお互いの甲冑が音をたてた。
「いいえ。貴方は私が全力をかけて幸せにしてさしあげます」
「よろしくな」
恋人達は笑いあうと口づけを交わし、再び闘いの日常へと戻った。
お題の七つめ。
戦場のメリークリスマス、
パーシヴァル×クリス編です!
クリスの幸せはパーシヴァルが、パーシヴァルの幸せはクリスの笑顔で。
誰がなんといってもこれはクリスマスのSSだと言い張ります!
最初の書き出しがすごく難産で、かなり困りました。
はうー。
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