クリスマス企画 約束をください

あなたは、叶えてくれますか。

 こつこつ、と自室の窓を叩く無礼者を発見して、アルシュタートは窓に駆け寄った。
 窓を開けると、その不埒な男は遠慮なく室内へと押し入ってくる。
 アルシュタートは、窓をしめてカーテンを引くと、男を見上げた。
「フェリド」
「よおアルシュタート、今日も一段と美人だな」
「毎回毎回……貴方という人は、いつになったらまともな出入り口から入るという習慣を身につけるのですか?」
 アルシュタートが言うと、フェリドはわははと笑った。
「無茶を言うな。そんなことをしたらあんたのところの女王騎士に殺される」
「……そもそも淑女の部屋をこんな夜中に訪れる貴方の神経がおかしいのです」
「嫌か?」
「だったらもうとっくにたたき出してます」
「だよなあ」
 にやり、とフェリドは笑った。
 アルシュタートはため息をつく。
 解放されているようで、実は警備厳重なファレナ女王国王宮ソルファレナ。次代の王位継承者として幾重にも守られているアルシュタートの部屋に侵入してきた男の名を、フェリドという。
 群島諸国から流れてきた傭兵、と言ってはいるが、類い希なる剣の腕といい見識の広さといい、ただの傭兵などではないことをアルシュタートは感じ取っていた。
「今日は遅かったようですが、なにかあったのですか?」
 いつもより若干遅い訪れをアルシュタートが問う。王女の部屋を夜訪れることが習慣化している不遜な男は苦笑した。
「ああ……、あれだ。今日はクリスマスだろう?」
「そういえばそうでしたわね」
 太陽の紋章を中心とした独特の宗教があるためか、ファレナの王族にクリスマスを祝う習慣はない。だが、一般の知識としてそんな冬祭りがあることは知っていた。
「あんたにプレゼントを……と悩んでいたら遅くなった」
「まあ。気を遣ってくださらなくてもよかったのに」
「惚れた女にはまめに尽くすのが俺のモットーだ」
「今決めたモットーではありませんの?」
 威丈夫を見上げて、アルシュタートは笑う。ばれたか、とフェリドは苦笑した。そして小さな花束をアルシュタートに差し出す。
「これがプレゼント、ですか?」
 悩んだ、と言う割にはポピュラーなプレゼントだ。
「と、もう一つ何かを……と思ったんだが、あんたは大抵のものを持ってるからな。適当なものじゃ喜ばないと思ったんだ」
「……否定は、しませんが」
 アルシュタートは、豪勢な室内を見渡した。
 国力の豊かなファレナ王族は物質的にかなり恵まれている。
 今更宝石の一つや二つ、増えたところで珍しくはない。
(フェリドにもらった、という時点で特別ではあるのですけど)
 しかし、そんな乙女の想いとは別のところに男のプライドというものも存在しているわけで。
「それで悩んだ末に、だったらいっそ欲しいものをあんたに訊くのがいいという結論に達したんだ」
「はあ」
「なあアル、あんたは何が欲しい?」
 そういって大まじめに見つめられて、アルシュタートはたまらずに笑い出した。
「……っ、ふふ、結論に至るまでが遅すぎではありません? 普通はもっと前に尋ねるべき質問ですよ」
「言うなよ……。それまで散々悩んだんだぞ?」
 いい年をしてふてくされるフェリドの顔を、アルシュタートはのぞき込んだ。
「ではフェリド、約束をください」
「約束?」
「ええ。貴方は決して負けないと約束してください」
「負けない約束か」
「そうです。春に開かれる闘神祭に出場して、勝ち残って優勝してください」
「闘神祭……? ってことは」
 フェリドは顔をこわばらせた。
 闘神祭とは、王女の夫を選ぶ祭だ。
 それに優勝しろと願うということは。
「……わかった。その約束かならず守ろう」
「絶対ですよ?」
 ほほえむ大輪の華に、フェリドはうやうやしく誓いの口づけをささげた。

お題の六つめ。
フェリドとアルシュタートの過去話です。

約束をください、ということで優勝を誓うフェリドさんです。
なんかすごいらぶちっくなんですけど、ご愛敬。
ラブ書いて満足!!


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