クリスマス企画 Where is St.Claus ?

似合わないことはするもんじゃない

 遠く響く鐘の音に、シエラは顔をあげた。
 鐘の音は全部で十一回。
 あと一時間で日付が変わる。
 シエラは今まで寝転がっていたベッドから体を起こすと窓の外に目をやった。
 黒く曇った今にも雪が降りそうな空が、どんよりと広がっている。
 部屋の中には、シエラの他に誰もいない。
 薄暗い部屋のなかで、暖炉の炎に照らされたシエラだけが浮かび上がっている。
 風に運ばれてどこからかクリスマスキャロルの歌声が聞こえてきた。
 今日はクリスマスイブ。
 本来ならば彼女もある人物とともに穏やかな時を過ごす予定だった。
 しかし、彼女は一人だった。
「まったく……」
 ふう、とため息をついてシエラが窓から視線を外したときだった。
 コン! と窓を叩く音がシエラを振り向かせた。
「あ……!」
 窓を叩いた相手に、先ほどまで頭の中で並べ立てていた文句をぶつけようと口を開けたシエラは、そのまま言葉を喉の奥に押し込んだ。
 そこにいたのは、シエラの望む金の人影ではなく、小さな小鳥だったからだ。
「……ドミンゲス」
 小鳥とは旧知の仲だ。窓を開けてやると、鳥はぱたぱたと羽音をさせて部屋に入ってきた。
「ドミンゲスJr、どうしたのじゃ? 主人は一緒ではないのかえ?」
 手を差し出すと、小鳥はシエラの指にとまる。
 くるる、と鳥らしく鳴いた後、ドミンゲスは小首をかしげて主人の現状を報告した。
「……ユクエフメイ」
「何じゃと?」
「なっしゅ、イナクナッタ」
 シエラは何度か瞬きをしたあと、有能なスパイのそれ以上に有能な相棒をまじまじと見つめた。
「いなくなったじゃと? 何が起こったのじゃ?」
 ドミンゲスも困ったようにまた首をかしげなおす。
「びっきーニてれぽーと頼モウトシタラ、くりすますぱーてぃーノくらっかーノ音ガ急ニナッテ、ビックリシテびっきーガクシャミシタ」
「それでどこかにとばされたとな?」
「気ガツイタラ、イナカッタ」
 ドミンゲスはくるる……とまた鳴く。
 クリスマスのクラッカーとビッキー、何か事故を起こせと言っているようなものである。
「危険じゃとわかっておったじゃろうに、何故このような日にビッキーにテレポートを頼むかのう」
「なっしゅノ奴、遅刻シソウデ慌テテタ」
「遅刻かえ?」
「夜ニナッテささらいニ仕事ヲ押シツケラレテ、遅刻寸前ダッタ」
 ナッシュの愛すべき鬼上司の名前に、シエラはやれやれとため息をつく。
「あ奴相手ではナッシュに勝ち目はないのう」
「……ソノ前ニ、劇ニ参加シテ、楽団ノ手伝イシテ、くりすニチョッカイ出シテ騎士団ニ追イカケラレテ、十二小隊ニカランデ、しゃろんト遊ンデタケドネ」
 つぶやきというにはあまりに長い補足説明に、シエラの目がつり上がる。
「あの馬鹿は……結局自業自得ではないのかえ!」
「ウン自業自得」
 うんうん、と小鳥はうなづく。
「全くしょうのない……人が珍しく待ってやっておればこの始末じゃ」
 珍しく、本当に珍しいことにシエラはナッシュを待っていたのだ。
 任務のためにグラスランドの古城に長逗留しているナッシュに、その日だけは仕事を抜けてプレゼントを持って行くから待っていて欲しいと頼み込まれて、おとなしく待っていたらこれだ。
「俺ガシッカリシテタラ、連レテ来レタノニ、ゴメン」
 くるる、と小鳥はすまなそうに鳴く。
「あの男の不運はおんしのせいではないよ」
 シエラは立ち上がるとコートを身につけ始めた。
「しえら?」
「待つ女などと、わらわに似合わぬことをするのではなかったわ」
 荷物を簡単にまとめて、紋章に力を込める。
 雲に遮られて月の光は少ないが、簡単な転移の魔法くらいなら使えるだろう。
「来るがよいドミンゲス。ナッシュのところへ行くぞ」
「しえら、ワカルノ?」
「何年あの馬鹿とつきあっておると思うのじゃ。あ奴の魂くらい簡単に見つけられるに決まっておろうが」
 ぱたぱたと羽ばたくとドミンゲスはシエラの肩にとまる。
「待つ女はもうやめじゃ! 探し出して文句の一つでも言わぬと気が済まぬ!!」
 悪態ひとつついて。
 シエラはどこかで苦労しているであろう男の元へと飛び立った。

お題の二つめ。
サンタさん(ナッシュ)はどこにいるの?と尋ねたところ、
行方不明になってましたとさ。
シエラ様は待つ女とかそういうイメージはありませんよねー。
むしろ待たせる女(笑)
不幸に見舞われてるナッシュの話はまた後日


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